コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第19回 香川県

2003/03/17 20:29

週刊BCN 2003年03月17日vol.982掲載

 香川県は全国で面積がもっとも小さい県。その一方で、県庁所在地の高松市は大手企業の四国支社・支店が進出し、四国の経済の中心となっている。人口は四国のなかでは愛媛県の148万人に次いで2番目の102万人と多い。しかし、長引く景気低迷で「香川県の蕫支店経済﨟も曲がり角にきている」と指摘する声は少なくない。地元システムインテグレータも、民間の情報化投資の低迷から、公共部門のIT化ビジネス獲得へ軸足を移してきたが、市町村合併が進むなかで、大手ベンダーを交えた激しい競争が繰り広げられている。(川井直樹)

「さぬき市」は富士通系、「東かがわ市」はNECに 旧来の”牙城”は過去のものに

■合併を視野に激しい受注獲得争い展開

 今の段階では、「市町村の合併の特例に関する法律」(合併特例法)は、2005年3月末までの市町村合併に適用されることになっている。合併した市町村が、合併当日から業務を行うために必要な情報システムの構築は、「少なくても1年前にはスタートしなければ間に合わない」と、大手ベンダーも、システムインテグレータも、共通の認識をもっている。

 合併後の自治体業務をスムーズに行うためには、04年3月末までにはIT統合をスタートさせなければならないことになる。高松市に本社のある富士通四国インフォテックの大久保博社長も、「ここ1、2年が勝負になる」と語る。

 香川県では02年4月1日に、それまでの津田、大川、志度、寒川、長尾の5町が合併し「さぬき市」が発足。また、今年4月1日には、同市に隣接する引田、白鳥、大内の3町が合併し「東かがわ市」が誕生する。

 小豆島の3町の合併法定協議会は解散したものの、観音寺市など1市5町の合併法定協議会があり、そのほかにも高松市を中心とした地域など、5地域で合併の検討が進められている。

 IT需要の面では、さぬき市の基幹系システムは富士通四国インフォテックが獲得しており、高松市の事業所のシステムでアウトソーシングを受注。

 一方、東かがわ市は、合併前の2町を押さえていたNECが確保している。香川県内の全市町での富士通のシェアは83%と高い。

 NEC四国支社の塊場收・公共第一営業部長は、「東かがわ市を押さえたことで、このモデルをベースに四国4県への展開を図る」とし、「香川での富士通の強さは絶対に譲れない」(大敬雄・富士通四国支社長)という富士通に対し、香川でのシェアアップよりも、その他の県でのシェア拡大を狙う。

 一方で、NEC系の四国電子計算センターの綾孝幸社長は、香川県についても「20年以上も固定されてきたシェアが動き出す」と、むしろ富士通の牙城を崩すチャンスと見ている。

■「きまいねっと」で公共施設予約システム稼働

 市町のシステムニーズに注目が集まる一方で、電子県庁の構築も着々と進められている。香川県では「きまいねっと」での公共施設予約システムを稼動させている。「きまい」とは、「香川県公共情報マルチアクセスインターフェイス」の英文頭文字を組み合わせた略称。99年から使用しており、現在は高松市の施設予約システムとも相互乗り入れを実現した。インターネットや情報端末からアクセス可能で、「月に1200件のアクセスがある」(佐々木隆司・香川県政策部情報政策課総務・IT推進グループ主任主事)と好調だ。

 また、庁内の文書管理決裁システムも稼動しているが、添付文書を含め紙文書との併用という。行政サービスでは、04年度中に電子申請・届出システムを具体化させる計画になっている。

 情報発信の面では、「産廃の島」として有名になってしまった豊島の産業廃棄物処理が今年夏から本格化するが、「県民だけでなく、全国の人にも環境政策を理解してもらうために、産廃処理の状況を毎日インターネットで見ることができるようにする」(窪保彦・香川県環境部廃棄物対策課資源化・処理事業推進室計画調整グループ副主幹)というのも香川県独自の情報化の取り組みの1つだ。

 こうした情報化を支える基盤ネットワークは、02年11月に「香川新世紀高速情報ネットワーク」が供用開始されたばかり。それまでは、合同庁舎など8拠点間は毎秒1.5-11メガビットの回線を使用し、それ以外の123接続点については同64キロビットの電話回線を利用してきたのに対し、新ネットワークは131拠点全てを同10-100メガビットの光ファイバーで接続した。回線はNTT西日本のネットワークを使う。

 「香川県でも自設か借り上げか、という論議になった。しかし、自設の場合は初期投資に20億円、年間経費に1億円必要なため、NTTのサービスである広域イーサネット方式のワイドLANプラスを活用することにした」(松本浩二・香川県政策部情報政策課総務・IT推進グループ副主幹)。

 借り上げとしたことで、県の負担する月間経費は600万円強で済む。LGWAN利用については月間200万円で半分を県が負担。37市町の月額負担は2万6000円程度とわずかだ。LGWAN回線としては03年度の供用開始を図るが、これまでの行政情報ネットワークや教育、防災、健康福祉といった個別のネットワークを統合したことで、県としては年間2700万円の通信経費削減につながるという。


◆地場システム販社の自治体戦略

富士通四国インフォテック

■合併のIT統合はASPが主流に

 合併してできた「さぬき市」の情報システムは、富士通四国インフォテックがアウトソーシング先になっている。「町同士の合併では、基幹業務も含めてASPが主流になるだろう」と、大久保博社長は予想する。「さぬき市がアウトソーシングでうまくいっていることを、他の合併自治体にもアピールしている」という。もともと5町が合併してできたさぬき市だが、そのうち2町は同社にアウトソーシングしていた。

 「本社が高松市にある会社にアウトソーシングするのはどうか、という議論もあったと聞いているが、すでに2町がアウトソーシングしていた」という実績が生きた。

 「富士通の四国支社にしてみれば汎用機が売れたほうが嬉しいだろうが」と笑いながらも、合併自治体向けにはアウトソーシングで実績を上げている点をセールスポイントにしていく。「従来は香川中心だったが、市町村合併を機に四国全域を開拓していく」と、各県の富士通現地ディーラーなどと協調していくことも視野に入れている。


四国電子計算センター

■外堀作戦の効果に期待

 ライバルのシェアが圧倒的に高い香川県で、「合併はチャンスだ」ときっぱりしているのは四国電子計算センターの綾孝幸社長。これまでは基幹業務は捨てても、図書館システムや水道関係のシステムなどを確実に取り込み、図書館については当初から100%のシェアをキープしている。

 「外堀作戦として、富士通の基幹業務がある市町から業務システムを受注してきた」ことが強みで、「当社は攻めに回る側だから、合併は大いに歓迎だ」と笑う。

 香川県では事実上、NECと富士通の争い。「地元システムインテグレータとしては、事業の根幹に関わるだけにお互い必死」だ。安値受注は避けたいが、初期のIT統合では利益にならないかもしれないことを懸念し、合併後のアフターサービスで帳尻を合わせることになるだろう、と見ている。

 「香川の地元システムインテグレータだから外には出ない。あくまでも地元に足をつけて事業拡大を図る」と言い切り、合併でのシェアアップを目指している。
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