中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>23.中国ビジネスのリスク (1)知的所有権侵害

2003/06/16 20:43

週刊BCN 2003年06月16日vol.994掲載

 前号まで、中小のソフト会社も積極的に中国へ進出してみるべきだと述べてきた。その考え方には変わりないのだが、今号から数回、中国ビジネスが持つリスクを検証してみたい。(坂口正憲)

 SARSのように予測不可能なリスクもあるが、リスクの多くは顕在化しており、対処可能だろう。中国ビジネスでのリスクといえば、よく指摘されるのが知的所有権侵害の問題だ。WTO(世界貿易機関)に加盟した中国では、模造品や不正コピーへの取り締まりが強化されたとはいえ、相当額の被害が生じている。

 そしてソフトウェア(パッケージ)は最も模造・コピーしやすい工業製品の1つである。業界団体の「Business Software Alliance」は、中国で使われるソフトの80%近くが不正コピーと指摘している。まだ遵法意識は薄いのが実態である。中堅ソフトベンダーの経営幹部は、「我々のようなパッケージ主体のベンダーは、いくら潜在市場があっても、怖くて中国ではビジネス展開できない」と話す。

 現実に、日本製のビジネス向けソフトが大量にコピーされて出回るという話は聞かないが、大手製造業のように法務ノウハウを持たない中小ソフト会社だと、不正コピー品が出回ってもなす術がないのが実情だろう。不正コピーされるのは“形”のあるパッケージ製品だけではない。中国に進出する大手システムインテグレータ関係者はこう漏らす。

 「辞めた現地社員が完成した開発プログラムを持ち出し、現地の企業に売り込もうとした事件があった。先方が善意で通告してくれたから良かったが、今までどれだけ知的資産が流出しているか分からない」

 日本でも人の流動に伴って技術やノウハウが流出するのは避けられないが、残念ながら中国では、歴然とした知的所有権侵害が起きる可能性も高いのだ。それは、中国のソフト会社に業務委託する場合にも起こり得る。システム製品の開発で、プログラミングを中国企業に委託したところ、いつの間にか自社製品として現地で売り出していた。こうした話を聞くこともある。そこで次号では、中国に進出する企業が、どのようにこの問題へ対処しているかを紹介する。
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