WORLD TREND WATCH

<WORLD TREND WATCH>第159回 イラク攻撃とハイテク

2003/06/30 16:04

週刊BCN 2003年06月30日vol.996掲載

注目する米IT工業界

 今日のコンピュータの原点は第2次世界大戦中に開発された弾道計算目的のENIAC(エニアック)であることはよく知られている。この歴史的背景からもわかるように、「戦争とコンピュータ技術」は密接な関わり合いをもってきた。今回のイラク攻撃でも米国防総省が投入したハイテク技術はテレビを通じて世界に詳しく放映された。イラク戦争が終結すると、米IT産業は一斉に米軍の兵器、装備の研究に群がった。とくに米IT業界が注目するのはイラク南部海岸から長く延びた米陸軍の補給路で運ばれた燃料、弾薬、そして日常陸軍が使う食料・消耗品などの補給システムだ。

 これはコストを無視して構築された理想的「サプライチェーンマネジメント(SCM)」という観点から、SCMのソフトベンダー、SCMで競合を振り切っているデルなどが注目し、研究を始めた。ワイヤレス通信と「TM-7」と呼ばれるワイヤレス端末によって、前線および補給路途上各地の物資情報はカタールの軍総司令部とリアルタイムで共有された。今回のイラク戦争で最大の威力を発揮したのはGPS(全地球測位システム)であった。GPSは爆撃目標のイラク施設の位置割り出しだけでなく、補給システムにおける搬送途上の各貨物のリアルタイム位置確認にフル活用された。

 TM-7はカリフォルニアの端末メーカー「エキスポーネント」がペンタゴンの要請で開発し、省電力チップとしてトランスメタの「Crusoe(クルーソー)」が実装された。このハンドヘルドは今秋から2000ドル(24万円)前後で米国で市販される。注目された米軍システムの第2は、バグダッド陥落直前にトルコ側から前線に投入された「IT歩兵旅団」である。この旅団で各兵員は完全にハイテクで武装されている。ゴーグル裏側のディスプレイで各兵士は旅団指令部と情報をリアルタイムに完全に共有した。各地で起きた戦闘にどう対処したかは直ちに整理され、旅団共有のKMS(ナレッジマネジメントシステム)のコンテンツとして利用された。

 この旅団システムは、「エンドtoエンド」に密結合された総合組織力が如何に強力であるかを示し、今後の企業ガバナンス手法に示唆するものが多い」と、米IT業界は感じている。この旅団兵士は各人が「パーソナルインフォメーションキャリア」と呼ばれるPICカードを持った。当カードはサンディスク製メモリカードで、兵士個々人の20年間にわたる医療情報が格納され、どこの前線病院でも使えるよう配慮された。そして技術的に最も注目れてたのは靴のカカトが特殊ポリマーフィルムで覆われ、兵士が歩くたびに靴と地面間の衝撃によって発電する「発電軍靴」である。兵士をハイテク武装するには大きなバッテリが不可欠だが、重く大きくて兵士への負担が大きい。このためバッテリなしのハイテク軍団と編成するための必需品として、1人ひとりの兵士自身が発電機となる装置が開発された。(中野英嗣)
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