中国ソフト産業のいま

<中国ソフト産業のいま>30.デジタル化進む市民生活

2003/08/04 20:43

週刊BCN 2003年08月04日vol.1001掲載

 SARSという大きな災禍があったにもかかわらず、中国のソフト産業は発展機会に恵まれているといえる。まず、基礎となる市民生活の状況変化に触れてみたい。(坂口正憲)

 実感を一言でいうならば、2003年に入ってからも“デジタル化”が目覚ましく進んでいる。02年に中国の携帯電話利用者は世界最大となったが、今や中学生レベルでも普通に持っている。若者が常に身に付けているヘッドフォンステレオも、すっかりMP3プレイヤーが主流となった。日本と違ってMD文化がないためストレートに進化した。

 中国は近い将来、インターネット利用者数でも米国を抜き、世界最大となる見通しにあり、すごい勢いでブロードバンド化が進んでいる。チャイナ・テレコム(中国電信)では、月額130元(日本円で2000円程度)のADSLサービスが売れ行き好調である。130元という金額は、平均的収入の市民にとってかなりの負担で、日本の貨幣価値に置き直せば月収30万円に対して2万円ぐらいの感覚になる。それでも最近では、サービス申込者の多くがADSLを選ぶようで、03年末にはADSL利用者は前年比倍増の600万人を超える見通しだ。

 こうした市民生活のデジタル化に伴って、企業サイドでもビジネスにウェブを活用し始めた。例えば、上海のあるスーパーマーケットでは景品の抽選をウェブ上で展開。会員登録すると抽選に参加できるサービスを提供していた。実際に利用してみると、ウェブと携帯電話とのリアルタイム連携など、バッググラウンドでは凝ったシステムを使用しており、企業の情報システムに対する投資意欲が高まっていることがうかがえた。

 つまり、中国の企業も日本の企業と同様に、顧客囲い込みのためにITを活用せざるを得なくなっている。従来、中国では「顧客」という意識は希薄だったが、外資系企業の進出ラッシュと経済開放で強烈な競争原理が生まれている(日本が戦後50年以上かけて経験してきたプロセスを、中国はこの10年で経験する)。市民生活のデジタル化と企業の情報投資。この2つ要素が絡み合う時、新たなソフト需要が確実に生み出されてくる。
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