コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第41回 北海道(下)

2003/09/01 20:29

週刊BCN 2003年09月01日vol.1004掲載

 北海道庁が共通基盤構想を固めるなかで、道内の各自治体もIT化に取り組み始めた。人口180万人を抱える札幌市は、「IT経営戦略」をまとめており、道央部の空知地域に位置する深川市は、総務省の「電子自治体推進パイロット事業」に指定された全国9か所の1つで、今年度末までの3年間で電子申請汎用受付システムの実証実験を行っている。それぞれ電子化に取り組んできたが、住民サービスの向上に電子化をどう生かすか、厳しい財政下でIT化をどう進めるかなど、各自治体共通の課題も多い。(川井直樹)

札幌市、IT経営計画で業務改革を推進 深川市は財政難で国家プロ継続を断念

■「自治体CRMの構築」を目標に

 札幌市は、自治体には珍しく「IT経営戦略」と情報化計画の中に、“経営”の2文字が入る。2001年度から03年度までの3か年計画で実施しており、今年度は最終年度にあたる。

 この計画は、これも自治体では珍しく、「自治体CRMの構築」を目標に掲げてきた。札幌市企画調整局情報化推進部IT推進課の安部雅明課長(プロジェクト推進担当)は、CRM(顧客情報管理)という定義について、「民間企業で言うCRMほどのイメージではなく、住民と市役所の関係の見直しを図り、サービス向上を目指してCRMという言葉を用いた」と語る。

 市民の利便性を向上させるためのCRM構築の一環として、コールセンターを設置し試行を実施してきた。これまで市内3区で試行を行い、今年4月から全市に対象を拡大したが、「まだ、市民のニーズをつかみきれていない部分がある。それを実現するためには、市役所の組織の問題も残る」(安部課長)。

 市民の問い合わせ内容によっては、多くのセクションが関わることになり、これまでは“たらい回し”にされてきた案件も、ワンストップで済むような改革が必要という。

 一方で、市役所内のIT化も着々と進めている。これまで各セクションで、それぞれ構築してきた業務システムの総数は約300。そのランニングコストだけでも、年間75億円も必要になる。札幌市は、02年度からコンサルティング会社を入れて、そのコスト削減に取り組んでいる。情報化推進部が管理する汎用機や国保、年金など各システムの見直しや統合を計画中だ。

 札幌市の情報システムを担当しているのは日本ユニシス。人口180万人を抱える札幌市は巨大なユーザーである。道内ではこのほかにも苫小牧市などがユニシスユーザーだが、札幌市は東日本営業本部、苫小牧市は北海道支店営業部というように担当する部署も変えている。

 「札幌市は当社にとって非常に重要な顧客」(吉田寛・日本ユニシス北海道支店官公ビジネス部長)と、道内だけでなく全国的に見ても自治体ユーザーとして、同社にとっては逃してはならない大切な顧客というわけだ。これまでは基幹システムを抑えていたが、自治体IT化で「競争は激しくなるだろう」(同)と覚悟している様子。

■市町村のIT化を左右する財政問題

 ITに積極的な姿勢を見せても、結果として財政が追いつかない場合もある。

 北海道の中央部に位置する深川市。01年度から総務省が全国9か所でスタートさせた「電子自治体推進パイロット事業」に選ばれた1市だ。パイロット事業として市民からモニターを募り、電子申請をなど実施している。

 しかし、380人のモニターのうち市職員が320人を占め、一般市民は60人。市民からのニーズが少なかったのは、市民のインターネット利用などITスキルの低さに加えて、「宣伝も足りなかった」とは、深川市総務部総務課主幹(統計電算担当)でマルチメディアセンター所長も兼ねる平山泰樹課長。深川市としての方向性が明確でなかったいう面もあるわけだ。

 だが、「深川市の面積は広く、市町村合併でさらに広がる可能性もある。厳冬期には雪に閉ざされる地域もありIT化は重要」(平山課長)と、パイロット事業参加の意味はあると強調する。

 とはいえ、この事業は今年度末で終わることになっており、その後の継続利用について平山課長は、「サーバーを借りて運営しており、その費用は総務省の負担。おそらくその金額は市の財政ではまかないきれない額になるし、総務省からの提示もない」と、財政的に全面的な継続は不可能という。このため、北海道庁が進める「電子自治体プラットフォーム(HARP)」に参加することを決めた、という。

 このパイロット事業に選ばれた中には三鷹市(東京)、横須賀市(神奈川)、大垣市(岐阜)、岡山市(岡山)などIT先進自治体の“代表”が名を連ねる。パイロット事業は3か年だが、実際に使用するのは年間2か月弱と短い。深川市もその中の1つでしかなく、むしろ様々な補助金を獲得し、あるいは独自にIT化を進める市ほどの効果は高くないというのが実態だろう。

 さらに、総合行政ネットワーク(LGWAN)の設置や庁内の電子化などで、「新しい制度に業務の大部分を取られている」のが実態とか。深川市も、道央圏情報ハイウェイ構築で延長距離40キロメートルの光ファイバーを利用できるなど、インフラはあるものの、しかし、地域での利用は計画にない。

 8月25日の住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の2次稼動と住基カードの交付には積極的で、「カードの多目的利用や身分証代わりの利用など、一番ふさわしい利用形態を考えたい」(平山課長)という。しかし、重要なのは「市役所や市民の意識の改革。ITを使う人がいなければ」(同)と、現状には戸惑いもみせる。

 「北海道は回ってみると、地図で見る以上に広い。隣接する市町村が広いため、関係が希薄。これが合併も進まない最大の理由だろう」(松原信・富士通北海道支社長)という面が北海道にはある。

 つまり、市町村レベルでの連携は、構想があっても難しいということ。「北海道経済の停滞もあり、道庁をはじめどこも財政的には厳しい」(鈴木正孝・NEC北海道支社長)と、市町村のIT化に対する提案も結局は財政の問題に行き着くと、ビジネスの難しさではライバル同士の見方も一致する。

 乏しい財政を生かして広い北海道のIT化をどう進めるか。地元IT企業や大手ベンダーの競争と協調が進められている。


◆地場システム販社の自治体戦略

つうけんアドバンスシステムズ

■自治体の悩み解決をビジネスに

 北海道は地元IT企業振興のために、3000万円以下のプロジェクトは地元企業や、地元企業を含めたコンソーシアムに発注することにしている。

 こうした施策を地元企業の1社である、つうけんアドバンスシステムズの北川智久・第一システム営業部営業課長は歓迎しながらも、「市町村レベルになれば財政は厳しく、新しいシステムへの移行もはかどっていない」と語る。

 地元企業ながら、オープンソースの自治体システム開発を目指す「電子自治体実証プロジェクト協議会」には参加していない。

 その理由について「当社にとって、ビジネスに生かすという方向が見えないから」と冷静に判断している。もちろん協議会の存在を否定しているわけではなく、「必要だと思えば参加も検討する」とか。

 道に対してアプローチするよりも、「市町村に対して、きめ細かくニーズ対応できるようにしていく」と足元を固める戦略だ。

 母体は、通信インフラ系の建設事業を手がけるつうけんだけに、「情報ネットワーク系では何らかの形で道内の市町村に関わってきた」と、各自治体とのビジネスの関わりは深く、問題点も把握している。

 「LGWANにしろ、自治体にとっては補助金で接続しろというから接続している。LGWANを活用する仕組み作りについての提案なども必要になるだろう」と、自治体の悩みを解決できるビジネスモデル作りを進め、顧客拡大を図っていく考えだ。
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