ITシステムは複雑化したため、その高い信頼性の維持を人手だけに委ねることは困難になった。この複雑性の解消のキーテクノロジーとして、人体の自律神経系のように自己管理機能をもつ自律型コンピューティングの考え方が浮上し、世界のIT業界はこの技術開発の覇を争い合うことになった。開発で先行するベンダー技術が、IT業界標準になる可能性も高い。従って、自律型機能はオンデマンドコンピューティングを支える重要な技術であると同時に、次世代業界標準技術開発の競合軸になりつつある。(中野英嗣)

複雑性解消のキー、自律型コンピュータ

■複雑性解消に挑戦する自律型コンピュータ

 システム内に異常が起きても、故障発生を防止し、障害による損傷を食い止めて自力で回復できるITシステムの開発競争が世界のIT業界で激しくなった。これを人間の生命維持機能の自律神経系になぞらえて、自律型コンピュータ、あるいは有機体(オーガニック)コンピュータと呼ぶ。

 IBMはこの機能を「オートノミック」と呼び、ヒューレット・パッカード(HP)は「ユーティリティデータセンター(UDC)」、サン・マイクロシステムズは「N1」、富士通は「リソースコーディネータ」、NECは「VULUMO(バルモ)」と呼ぶ技術を開発した。

photo IBMオートノミック担当、アラン・ガーネック副社長は、「この技術は顧客のITシステムがより複雑化したことを背景に生れた」と次のように語る。

 「複数ベンダーの異なるハードやソフトを組み合わせるオープン系システムは、かつてのメインフレームに比べてシステム保全に幅広い技術が要求される。さらに、インターネット利用でシステムは24時間の無停止稼働が求められ、トランザクション件数もケタ違いに増加した。このようにシステム負荷が大きくなるという背景から、“壊れないシステム”、即ち“トラブルが起きても自動的に修復する機能をもつシステム”を実現する技術が求められた」

 自律型コンピューティングのもたらすユーザー側メリットへの期待も大きくなっている(Figure13)。

 米ハイテク調査会社IDCは、とくに自律型コンピューティングの利点として、「システム管理コストの低減とITスタッフに要求されるスキル高度の歯止め」をあげる。

photo オンデマンド経営を支える新しいITアーキテクチャ開発競争に突入したことで、ベンダー間の開発競合軸も大きく変化してきた。従来のメインフレームは「高性能、大容量コンピュータ」が開発競合の軸だったが、これがクライアント/サーバー時代には「TCO削減、高可用性(ハイアベイラビリティ)の追求」へと変化した。さらにオンデマンド時代には「自律型機能とこれに関連する仮想化技術」の開発で、ベンダーは覇を競うようになった(Figure14)。

 従って、この競合軸の変化に乗り遅れるベンダーの市場プレゼンスの弱体化も目立つようになった。コンピューティングモデルの次世代主力はグリッドコンピューティングと考えられており、グリッド網を構成する各要素ITの複雑性解消、障害発生防止はグリッド実用化のためにも必須の条件となる。

■自律神経系機能をもつITで自己管理を強化

photo 米フォレスターリサーチは、「冗長性が大きいコンピューティング資源を共有することで、障害発生の影響を低下させる」オーガニックコンピューティング概念を提唱していた。フォレスターは自社概念は、自律神経系を追求するITと、オープンスダードの普及でオートノミックコンピューティングとして具現化すると解説している(Figure15)。

 いずれにせよ、現行ITシステムの複雑性は急速に増大しており、人間の管理限界を越えつつある。また、障害発生時の対応にも時間がかかるようになり、無停止運用を要求するeビジネスに逆行する動きにもなった。これまでもシステム管理の自動化を狙う「システム管理ソフト」の需要は大きくなったが、管理ソフトの対応だけでは不十分で、すべてのITリソースを包含するシステムの自己管理機能が求められるようになった。

 一方、企業内にはITシステムが廉価になったことで、部門最適化を目的としたシステムが乱立して、企業が保有するシステム利用率は極端に下がった。

photo ガートナーによると、24時間の平均利用率はメインフレームが60%で、ピーク時最大利用率が92%だが、ピーク時でもUNIXサーバー70%、インテルサーバーは34%という低さにとどまっている(Figure16)。

 しかも、IT資源とアプリケーションが固定化されている現状では、余剰IT資源をほかに転用することもできない。利用率低下は当然TCOの増大と、ROI(投資対効果)追求にも逆行する現象だ。仮想化は「複数のハードを論理的・仮想的に1台にまとめて一元管理し、指示に従って機器構成変更や資源再分配をできる機能」であり、オートノミック機能を実装したIT普及が仮想化実現の前提にもなる。

■状況監視・自己管理のループを実現

photo オンデマンド経営を支えるオンデマンドコンピューティングでは、統合化、仮想化、オープン化と並んで、自律型が必須のコンピューティング機能となる(Figure17)。

 IBMは、自律コンピューティングには、(1)自己構成、(2)自己修復、(3)自己最適化、(4)自己防衛――の4機能が必要になると説明する。例えば、システムの1部に障害発生が検知された場合、その回路を切り離して(チップキルテクノロジー)、全体システムを保全するか、処理性能を落として負荷を下げるかという判断も自律型コンピューティングで行うことになる。即ち自律型は、「トランザクション発生の大きな変動やシステム障害が発生しても、サーバーやストレージ機能を一定水準以上に保つ自己管理技術」と考えることができる。

photo 自律型コンピューティングでは、(1)異常事態発生の監視→(2)障害箇所の特定・異常原因分析→(3)対策の自動実行、という自己の管理のループが完成することになる(Figure18)。

 既にIBMの最新大型メインフレームでは障害発生プロセッサの自動切り離しなどは実現しており、今後は切り離し後の「余備プロセッサの追加」も実現する。オートノミックコンピューティングのアーキテクチャは今後3層構造になると考えられている。第1層はサーバー、ストレージ、クライアント機器、ミドルウェアという個別製品群だ。第2層は業界標準インターフェイス、第3層はシステム管理を受け持つ管理ソフトである。第1層の製品には自己構成、自己修復などの自己管理機能が組み込まれる。第2層インターフェイスを使って個々の製品が相互に会話ができるようにし、第3層のシステム管理ソフトがシスム全体の自律機能を司るようになる。

 今後、自律機能の普及で期待されるのは、低価格のインテルサーバーなどへの普及だ。これによりITスタッフのいない中小企業へも自律型コンピューティングの恩恵が及ぶことになる。