テイクオフe-Japan戦略II IT実感社会への道標

<テイクオフe-Japan戦略II>21.2003年を振り返って

2003/12/22 16:18

週刊BCN 2003年12月22日vol.1020掲載

 2001年1月にe-Japan戦略が決定してから、まもなく3年が経過する。「世界最先端のIT国家をめざす」と勢いよくスタートを切ったものの、今年1年も国民が利便性を実感できるような目立った成果はほとんどなかった。なぜ、e-Japan戦略は停滞しているのか。04年はこの現状を打開できるかどうかの正念場を迎える。(ジャーナリスト 千葉利宏)

現状を打破できるか

 「日本人はアーキテクチャを作るのが苦手ではないのか?」――。もう15年も前になるが、外資系コンピュータメーカーの技術者から言われた言葉がいまも耳に残っている。情報システムを構築する上で最も重要なのは、将来の機能拡張や技術進歩、社会ニーズの変化などに対応できるフレームワーク(枠組み)を構築しておくこと。予測していなかった変化にも対応できるぐらいでなければ、この変化の激しい時代、すぐに陳腐化して使いものにならなくなってしまう。

 政府は、e-Japan戦略をスタートしたあと、毎年2兆円近い予算をIT分野に投入してきたが、今年に入ってシステムのフレームワークを見直す動きが相次いでいる。一気にIT投資を始めたものの、このままでは無駄が生じる危険を察知して、慌てて後戻りした印象だ。象徴的なのが、7月に策定した電子政府構築計画だろう。各府省がバラバラに行っていたために生じた重複投資などの無駄を排除するために、新しいシステム設計体系「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)」を導入、民間からCIO補佐官も起用してシステムを再構築する方針を打ち出した。

 地方自治体の情報システムでも同様の問題が表面化している。年明けに改めてレポートする予定だが、これまで開発が進められてきた自治体向けシステムでは相互利用が難しいとの危機感から、福岡県や宮城県を中心に技術標準を策定して協調しながらシステム開始する動きが本格化してきた。アプリケーション分野では、電子カルテの標準化プロジェクトも今年4月から始まったばかりだ。すでに補正予算などで電子カルテ普及のための予算措置が2年前から講じられてきたが、先にレポートしたように電子カルテの機能要件や業務フロー、開発フレームワークなど基礎的な研究が進められている段階。医療分野における個人情報保護の問題も整理する必要があり、まだ準備不足という印象は否めない。

 昨年6月に岡山県新見市から始まった電子投票も、今年は相次いで2市でトラブルが発生。今後実施を予定していた自治体で電子投票を中止する動きも出てきている。セキュリティ対策では、「MSブラスター」の拡大で、感染による直接被害だけでなく、システム復旧までの経済損失の問題も浮上してきた。こうした問題が表面化してきた原因は何か。目的が明確でないままにIT化だけを推進してきたことにあるのだろう。IT化さえすれば、いつの間にか「業務改革」が進んでいるわけではない。「構造改革」のお題目だけでは、何も変わらないのと同じ。何をどう変えるのかがはっきりしていないのに、システムの仕様を具体的に書くことなど不可能である。

 「IT化を進めたら、何をどう変革できるか。官僚は十分に理解しているはず。しかし、官僚にはその権限はない。決断できるのは、政治家だけだ」(大手ITベンダー役員)。確かに“改革派”と呼ばれる知事の多くは、行財政改革にITを積極的に利活用しようという意識が高い。裏を返せば、ITに興味を失っている政治家は、景気対策としてのIT投資に熱心だっただけで、本気で「構造改革」を進めようと考えていたわけではなかった?

 04年はe-Japan戦略の新たな展開を期待したい。

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