コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第60回 茨城県

2004/01/19 20:29

週刊BCN 2004年01月19日vol.1023掲載

 東海村の原子力やつくば市に代表される最先端科学技術の要衝でもある茨城県は、「県全域のIT化は必須条件」(須田裕之・茨城県企画部情報政策課IT推進室長)として、県が主導してIT戦略を積極的に推進している。2003年には全市町村のLGWAN(総合行政ネットワーク)や県全域をカバーする2.4ギガビットのネットワークが完成した。また、市町村役場までの支線接続についても県が実施するなど、県と市町村の共同体制は多岐にわたる。IT戦略は道路整備と自然環境の保全と並ぶ、橋本昌知事が提唱する重点施策という位置づけだ。原子力施設の防災情報の伝達という観点からも、「地域差のない高度に平準化されたIT」(須田室長)を必須条件として整備を積極化させている。(谷畑良胤)

県と市町村によるITの共同利用進む 2.4ギガのネットワークを整備

■“関東圏では最先端”の通信インフラ

 茨城県は、日本の「原子力開発発祥の地」として、東海村を中心に数多くの核開発・原子力施設を抱え、つくば市にも国や企業の研究機関が集まる中枢拠点「筑波学園都市」などがある、日本の「科学技術の要衝」である。そのため、国家的な責務という点から、「防災や先端技術情報の発信などで、IT化を積極的に推進する必要があった」(須田室長)と、01年度から県主導のIT戦略を相次ぎ打ち出してきた。

 その中核的な事業が「全国最高水準」を銘打った県内全域をネットワーク化する超高速・大容量通信網「いばらきブロードバンドネットワーク(IBBN)」。03年4月、県内15か所のアクセスポイントと83全市町村が伝送容量2.4ギガビットの光ファイバーで結ばれた。その第一弾として10月からは、富士通が開発したインターネットや携帯電話を利用した県と市町村(33市町村)のスポーツ施設の検索・予約システムなどネット活用による行政サービスが始まった。

 IBBNは、「伝送容量やアクセスポイント数は福岡県のギガビットハイウェイ並み。アクセスポイントと市町村役場を結ぶラストワンマイルの支線を県の事業として接続するのは、宮崎県に次いで全国2番目」(半田賢治・茨城県企画部情報政策課課長補佐)と、ネットワークインフラ整備では、「関東圏では最先端だ」(半田課長補佐)と自負する。

 IBBNの支線部分は、民間企業にも無料開放。県内の民間企業11社がIBBSを利用した店舗間の受発注や商品管理情報のデータ通信などeコマースの展開を進め、今後1年程度でIBBNを利用しようと関心を寄せている企業は約30社ある。「県内の工業団地に拠点を構える企業などから引き合いが多い」(須田室長)と、好調な滑り出しを見せている。

 茨城県では、IBBNの民間企業利用を進めるため、03年10月、「ITサポートセンター」を開設。接続を希望する企業向けに通信事業者と連携したインターネット接続方法の提案や相談を行う一方、「県の担当者が個別に企業を訪問して、利用を促している」(須田室長)。特に、07年開業予定の東京・秋葉原と筑波学園都市を結ぶ「つくばエクスプレス」の沿線地区に対しては、開業に合わせてITの戦略的活用を狙った「つくばスマートコリドール構想」という県独自の開発プロジェクトを開始。東京から進出した企業などの情報基盤整備を重点的に行う。

 04年度前半には、つくば市を除く全市町村でこの超高速・大容量通信網を利用した「電子・申請届出システム」も稼動する。総務省の「共同アウトソーシング・電子自治体推進戦略」などの方針を受け、構築段階から県と市町村の共同利用を前提としてシステム構築を開始。運用は日立製作所やNTT東日本などの民間にアウトソーシングする。IBBNの利用では、日立製作所水戸総合病院(水戸市)でCT画像の伝送利用が始まり、今後、県立学校や図書館など教育機関のネットワークや電子入札など公共事業分野で順次利用拡大を進める方針だ。

■七会村では各家庭に光ファイバー

 茨城県は保守的な“土地柄”といわれる。そのため「県主導になれば全県のまとまりが早い」(半田課長補佐)と、IT戦略でも県と全市町村が共同歩調を取る例が多い。

 02年5月には「いばらき電子自治体連絡協議会」を設置、施設予約など共通システムの共同開発を行ったほか、LGWANや公的個人認証などの整備も県と全市町村の共通施策として推進してきた。今後は、中央省庁で検討が進む業務・システム最適化計画「エンタープライズ・アーキテクチャ(EA)」に基づく共通基盤整備を県庁で進め、県が構築するシステム基盤を、「レガシー(旧式)システムの再構築に悩む市町村に提供する」(野澤勝・茨城県企画部情報政策課電子県庁推進担当課長補佐)予定。

 茨城県で現在進行中のIT戦略は、01年12月に策定された「県IT戦略推進指針」に基づき、毎年度の微調整を加える「県IT戦略推進アクションプラン」(02年3月)で具体的な施策を展開中。このプランには、IBBNなど「実施する施策」73施策と次期プランに向け「引き続き検討する施策」として24施策を打ち出している。政府が策定した「e-Japan戦略II」に基づく電子県庁・自治体に関するIT戦略は、「05年4月の全体運用を目指している」(須田室長)と、順調な進捗をアピールする。

 電子県庁の推進では、04年度から県庁内の「総合文書管理システム」や設計・製造・調達・決裁をIBBNのネットワーク上で行う「建設CALS/EC」など行政システムの効率化が進む。ただ、県庁職員のパソコン1人1台整備やメインフレームに代わるEAに基づく共通基盤の構築などでは、「財務・人事・給与などのソフトウェアのバージョン管理など課題がある」(野澤課長補佐)と、インフラの整備を急ぐ方針だ。

 県内市町村の電子自治体化は、つくば市や守谷町などが全国トップレベルにある。なかでも「村部では全国1を誇る」という七会村は、役場のイントラネットや文書管理の電子化、住民票の電子申請などを02年度に整備。03年度は「加入者系光ファイバー網設備整備事業」を2億8000万円で実施。IBBNと接続した村内の全家庭650戸が光ファイバーで結ばれ、今年4月から利用が始まる。「従来のISDN回線では、伝送速度が遅く、住民票などの出力に支障が生じていた」(飯村正則・七会村総務課財政係長)と、高速回線を使い画像や映像による防災などの公共サービスを拡充する計画だ。

 茨城県の須田室長は、「七会村の取り組みは、NTT局舎の関係でADSLが整備できない遠隔地の県内約10町村で見本になる」と、こうした先行事例を他の市町村に波及させることで、県全体のIT戦略が底上げされると見ている。


◆地場システム販社の自治体戦略

日立製作所関東支社茨城支店

■地の利を生かし公共事業で攻勢

 日立製作所関東支社茨城支店は、日立製作所の“企業城下町”である茨城県内で、公共事業や病院、関連企業へのIT事業で強みを発揮している。だが、最近は、日立製作所自体の業績不振、関連企業の統廃合やIT投資の抑制が響き、「企業向けビジネスは一時的に厳しい状況が続いた」(高津次朗・公共情報部長)と、戦略の見直しを迫られたという。

 市町村合併や電子県庁など公共事業では、「地場のISV(独立系ソフトウェアベンダー)などの攻勢を受けている」(高津部長)ものの、県と市町村が共同アウトソーシングした「電子申請・届出システム」をNTT東日本と共同で受託するなど、影響力を維持している。

 昨年度に完成した県庁と市町村役場を結ぶ「いばらきブロードバンドネットワーク(IBBN)」では、支線部分のルータやネットワーク構築などを手掛けた。高津部長は、「無料開放されるIBBNの高速回線を利用し、中小企業向けのIT化提案を茨城支店独自に検討している」と、IBBNの接続を“ビジネスチャンス”と捉えている。

 七会村役場のイントラネットや電子申請・届出、文書管理システムは、日立製作所の統合運用ソリューション「JP1」が採用されている。「こうした事例を他の市町村でも波及させたい」(高津部長)と、地元の利を生かした取り組みを急ぐ。
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