米国流通最前線を行く

<米国流通最前線を行く>第4回 シアーズ・ローバック 実店舗の強みをネットに

2004/02/09 20:42

週刊BCN 2004年02月09日vol.1026掲載

 シリーズ第4回は、シアーズ・ローバックを取り上げる。シアーズ・ローバックは家電/パソコン専門ではなく、一般家庭用品を広く扱っている。その歴史、扱う品目、売り上げや顧客数など、専門店とは比較にならないほど大きい。専門業者ではなく、他業種からの参入組としての立場もあり、家電販売では、ウォルマートやターゲットなど、ほかの大手小売りチェーンのテストケースとなっている感もある。小売業大手の家電販売への取り組みを示す。

「クリックアンドモルタル」の成功モデル

■100年以上の歴史を誇る

 シアーズ・ローバックは老舗の総合小売りチェーンである。同社は1886年に創業。当初はカメラや宝飾類のOEM(相手先ブランドによる生産)による通信販売からスタート。その後、取り扱い商品を拡大しながら成長を続けた。20世紀初頭には、同社のカタログは過疎地農村における「農民の聖書」とまで呼ばれた。

 20世紀に入ってからはデパート/モール形式の店舗を展開し始め、現在では870店舗を全米のモールに展開するとともに、モール以外に1300店舗、さらに770の独立店舗や、自動車用品専門チェーン店、園芸専門チェーン店など475店舗を展開。カナダにも1900店あまりを展開する。

 しかし近年では、インターネットによるネット販売の売り上げ比率が高まっている。この方面での成功は、従来の通販事業の経験が十分に生かされている。

 同社の競合会社はウォルマートやターゲットだが、ネットショップが成長した今では、アマゾンやイーベイなどのeコマース専門組も具体的な競合相手と言える。

 シアーズ・ローバックの歴史は100年以上にわたっており、本来は衣料品を中心とした家庭用品全般を取り扱ってきた。1990年代以降、高額かつ利益率の高い高額家電製品を扱うようになった。米国経済の失速と各方面の新興産業に押されて同業他社が衰退していくなか、いち早くパソコン販売やオンライン事業などを実現。さらには金融部門や自動車保険部門の売却など、徹底的なリストラを含む対策を実施し、生き残りに成功した。もともとパソコン関連製品販売のノウハウはそれほど豊富とは言えず、当初は意外な苦戦を強いられた。しかし長年の販売業の経験はこれらの分野での成長も実現し、現在では同社の売り上げの重要な柱となった。

■通販のノウハウを生かす

 同社は1999年にオンラインショップ「シアーズ・ドットコム」を開始した。ここでは同社の知名度と通販によるノウハウを十分に生かし、デジタル関連機器類も主要なラインアップの1つとなっている。

 オンライン事業に関しては、総合的な自社サイト以外に、家電などのパーツを販売する「パーツダイレクトドットコム」や中小企業が備品を調達できるBtoBサイト「スピードコマーシャル・ドットコム」など4種類のショッピングサイトを運営している。これらはいずれも好調で、順調に売り上げを伸ばしている。サイトの開設にはIBMやオラクルなどのシステムを採用した。

 同社のオンライン・ショッピング部門は、従来の通販事業での経験や実店舗での接客経験などを存分に生かしたことが成功の秘訣と言われ、「クリックアンドモルタル」の典型的な成功モデルとして、しばしばマスコミなどで取り上げられている。これらの施策は、多くの同業他社の参考となり、現在でもウォルマートやターゲットなどの小売り業大手は、オンラインショップに関しては、概ねシアーズと同様の手法を採択している。

■新業態店舗を展開

 しかし、IBMと共同で運営を開始したISP(インターネットサービスプロバイダ)のプロディジーが経営不振のため96年5月に売却されるなど、IT関連の施策の全てが成功してきたわけではない。もっとも、02年のクリスマスシーズンにはデルと提携し、シアーズの店舗内にデルの店舗内店舗である「キオスク」を設置し、新規需要の開拓を図るなど、この分野には相変わらず期待を寄せている。コンプUSAとアップルによる、「ストアinストア」に似たこの戦略は、試験的に展開されていた57店舗の全てに「キオスク」を03年からは常設とすることになった。さらには広報宣伝活動についても、双方向テレビ事業者のジェムスターと提携し、同社の放送を視聴する層に液晶テレビやDVD、デジタルテレビなどデジタル家電の需要を喚起しようとしている。

 03年10月には新業態店舗として「シアーズ・グランド」店の第1号をユタ州ソルトレークシティに開店。今後多くの店舗を、オンラインと競合しにくい業態へ転換することを計画しており、これによりオンラインショップにおける自社の優位も確保しようとしている。

 今後はオンライン部門のさらなる成長とともに、実店舗における業績向上のために、長年の経験と実績、そしてずば抜けた知名度を生かしながら、消費者への刺激もある程度備えた新しい施策が待たれる。

【会社概要】
■ 企業名:シアーズ・ローバック
       (Sears,Roebuck and Co.)
■ 社長:アラン・J・レーシー(Alan J.Lacy)
■ 企業形態:株式上場済み、NYSE,S
■ 決算月:12月
■ 2003年度売上高:411億2400万ドル
■ 過去1年間の成長率:0.6%
■ 2003年度収益:33億9700万ドル
■ 過去1年間の収益の伸び率:146.9%
■ 従業員数(2002年度):28万9000人
■ 過去1年間の従業員数の伸び率:6.8%
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