コンピュータ流通の光と影 PART VIII

<コンピュータ流通の光と影 PART VIII>最先端IT国家への布石 第73回 総集編(3)

2004/04/19 16:04

週刊BCN 2004年04月19日vol.1036掲載

 地方自治体の情報システム運営には、地元のシステムインテグレータや販社が活躍してきた。県や中核市といった自治体は大手メーカーなどが直接ビジネスにタッチしているが、町村レベルで情報化を担ってきたのは地元のIT関連企業だ。市町村合併や広域連携による事業拡大は、そうした地元企業にも影響を与えている。(川井直樹)

地元企業に影響大きい市町村の情報システム運営 販社やシステムインテグレータの勢力図に変化

■電子化が急速に進む自治体業務

 かつて自治体業務の“電算化”が始まった頃は、そのほとんどが地元にある「計算センター」などへ業務委託するケースが多かった。現在でも第3セクター方式で、自治体業務を一括請負し、民間企業向けの業務は行っていないシステムインテグレータもある。

 当初は、アウトソーシングで始まった自治体の電算業務だが、それは1日分の業務データを計算センターに渡し、バッチ処理するやり方が当たり前だった。その後、1980年代から町村レベルでもコンピュータシステムの自己導入が進み、メーカー系列の販社やシステムインテグレータなどの地元企業が次々に自治体の情報システム構築・運営に携わってきている。

 県レベルでも第3セクター方式の計算センターの活用以外にさまざまな業務システムが導入されたことで、全国規模の大手メーカーや地元企業が入り込むことになった。また、そうした県の多くは、職員による運用ではなく、システム運用そのものを委託する場合が多い。町村の場合でも同様だ。

 そんななか、電子申請・届出や総合行政ネットワーク(LGWAN)による自治体ネットワーク化、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の本格稼動など、自治体業務の電子化が急速に進んでいることから、地元販社やシステムインテグレータの勢力図も変わりつつある。

 鳥取県は県のシステム運営を、県や商工会議所などが出資して1969年に設立した財団法人鳥取県情報センターに委託している。同センターは県だけでなく、県内の多くの市町村の情報処理や運用支援も行う。

 鳥取県情報センターの担当者は、「これまで通りの随意契約で、というのは社会的な面からも難しくなっている。業務システムが細分化しているなかで、競争入札が一般化しメーカーとの競争も激しくなっている」と危機感を強めており、「これまでは民間向けビジネスを拡大したり、他県への進出は財団法人という体制上難しかったが、そうした手法も必要になるかもしれない。財団法人という在り方も検討の対象だろう」と、自治体ニーズの拡大により大手ベンダーとの競争が激しさを増していることで、事業構造の見直しが必要とみる。

 同じ第3セクターの岩手県盛岡市にあるアイシーエス(ICS)。県内の自治体シェアは80%。岩手県は、他県に比べてはるかに多い27か所もの県立病院を持つが、その県立病院については100%、ICSがシステム構築している。大手ベンダーの現地支店でもICSの牙城をなかなか崩せない。

 そのICSも、「岩手県は市町村合併が遅れているが、それが本格化すれば大手メーカーなどとの競合は必至」と予想。すでに合併案件では岩手県外のプロジェクトを受注するなど、これまでも自治体ビジネスで強い青森県や秋田県、宮城県北部など県外進出をさらに強化していく考えだ。

■地場企業独自の生き残りは困難に

 栃木県のTKCや長野県の電算など、県内にとどまらずビジネスの領域を広げているシステムインテグレータも少なくない。TKCも電算も独自に30億円前後を投じIDC(インターネットデータセンター)を建設・保有しており、「ASPサービスの拡充で自治体サービスを強化する」(TKC)と、アウトソーシングによりビジネスのテリトリーを広げている。

 電算も、隣の新潟県の一部の自治体システムでの実績があった。電算の担当者は、「他県の市町村合併では地元のベンダーや大手に対して弱い立場になりやすい」というが、黙ってシェアを落とすわけにはいかないと、新潟県での営業に力を入れた。

 その結果、佐渡島の10自治体が合併してできた佐渡市の情報システム構築プロジェクトは、新潟県の地元企業を押し退けて電算が獲得した。こうした企業では、ビジネスの“広域化”は当たり前と考え、IDC設置など事業拡大の手を打っているわけだ。

 またメーカー系の地元ベンダーでも、島根県のテクノプロジェクトのように「自社開発した自治体ポータルシステムや医療情報システムが、富士通の公共ソリューションに採用されている」(井原紀雄社長)というケースもあり、自治体システム拡販を全国規模で進める富士通にソフト開発力が認められたことで、県外自治体に活用されるチャンスも出てきたという。

 テクノプロジェクトの場合、中国・蘇州市に合弁会社を設立し、自治体ポータルシステムの中国語版の開発に着手するなど、国外にも販路を広げている。

 自治体IT化や市町村合併は、地元のシステムインテグレータや販社にビジネスチャンスを与えると同時に、自治体ビジネスからの撤退を余儀なくされる、というコインの裏表の関係にあるともいえる。あるメーカー系の地元販社のトップは、「これまでは県、市はメーカー直接、町村レベルは販社という棲み分けがあった。しかし、合併で新市に移行する町村が多く、出る幕が少なくなりつつある」と嘆く。

 また、別のトップは「資金力も技術力にも乏しい地元企業にとっては、町村レベルが精一杯。合併プロジェクトでも全体を担当することはできない。また、小さな村が顧客になっていても、合併のなかでは中心にならない。結局、顧客を失うのを黙って見ているしかない」と参入が難しい悔しさを滲ませながらも、手の施しようがないといった様子。

 大手メーカー各社は、SE(システムエンジニア)を確保するためにも、系列の販社やシステムインテグレータを重視する姿勢に変わりはない。しかし、競争でその系列が負ければ、地元企業が独自に生き残り策を見つけていくのはますます難しくなっている、というのが実情だ。

 IT化で先頭集団を走る岐阜県は、NTTコミュニケーションズ(NTTコム)に県の情報システムのアウトソーシングを決めた。このため岐阜県のシステムに関しては、地元システムインテグレータはNTTコムの下請けに入れるかどうかが業績を左右する。岐阜県は、NTTコムに対して県内企業の活用を求めているという。いずれにせよ、下請けに徹するしか、自治体システムで生き残る方策はなくなったというわけだ。
  • 1