OVER VIEW

<OVER VIEW>低成長下、米国ベンダー新しい戦略を探究 Chapter2

2004/05/17 16:18

週刊BCN 2004年05月17日vol.1039掲載

 マイクロソフトとサン・マイクロシステムズによる係争の和解と包括技術提携は、今後巨大市場が見込まれるウェブサービスでの2大基盤のJavaと.NETの相互運用性確保という観点から評価する声は業界で強い。しかし、このプロセスでは、マイクロソフトが20億ドルという巨額を一方的に支払うことで、サン支配力を強めたことも否めない事実だ。マイクロソフトも、自らが寡占化してきたウィンドウズのITインフラ市場がサチュレーションとなって、ドミナントによる収穫逓増の効力が限界に近づいていることから戦略転換も必要であった。(中野英嗣)

サンへの支配力を強めるマイクロソフト

■窮余の一策、サンはマイクロソフトとの提携を選択

photo IT市場が世界的に回復し、世界有力ITベンダーが増収増益決算を発表するなか、サンだけは04年6月期も前年度比減収で赤字が続く決算予想である。この苦境にあるサンは04年4月、マイクロソフトと7年にわたったJavaを巡る係争を和解し、包括的技術提携することを発表した。今回の合意でマイクロソフトはサンに対して和解金として独禁法関連で7億ドル、サン特許関連で9億ドルの合計16億ドルを支払う。

 さらにマイクロソフトは今後、サン技術を使用するための前払い金として3億5000万ドルを支払う。こうしてマイクロソフトは一括して20億ドル(約2200億円)近い巨額を支払うことで、苦境サンの救世主的役割を演じたことを世界市場にアピールできた。マイクロソフトはソフトベンダー、サンはUNIXサーバーベンダーだったが、サンがJavaを発表して以来、両社はJavaを巡って係争を繰り返してきた。

 一方、マイクロソフトはIT不況でも右肩上がりの成長を続けたが、サンは02年から業績が下降を続け、04年3月両社9か月決算を見ても両社業容には大きな格差がついてしまった(Figure7)。

photo サンは、大幅な売上減少と、独自のOS「Solaris」とプロセッサ「Sparc」を開発し、シングルアーキテクチャを標榜してきた。世界のUNIXサーバーでサンは長い間圧倒的に高いシェアを確保したが、最近ではLinuxインテルサーバーでローエンドUNIXユーザーを侵食され、ハイエンドではIBMに顧客を奪われた。さらにサンは独自開発を続けるため研究開発(R&D)費を売上減少下でも削減できず、R&Dの売上高比は17%、さらに稼ぐ総利益の40%以上をR&Dに投入せざるを得ず、赤字は続いた(Figure8)。

 サンは、度重なる人員削減も迫られており、その経費捻出のためにも巨額を手にできるマイクロソフトとの和解提携に応じざるを得ない窮状にあった。

■マイクロソフトもJavaとの融合を意識

photo 一方、マイクロソフトは04年3月、EUからも独禁法違反裁決を受け、4億9720万ユーロ(約650億円)の制裁金支払いを命じられた。マイクロソフトはグローバルに広がる独禁法常習犯的イメージを刷新することを迫られていた。そこで係争戦線整理のため、まずサンと和解した。サンに続いて同社は米インタートラストとコンテンツ保護技術を巡る係争も4億4000万ドルを支払って和解した。

 マイクロソフトの係争整理は一気に進むだろう。マイクロソフトはウェブサービス市場を.NETで制覇することを狙っていたが、同市場ではIBMが中心になってJavaベースが先行していた。自社ビジネス戦略転換のためにも同社は、ウェブサービスでJavaとの相互運用性を確保するサンとの技術提携は必要であった。さらにマイクロソフトは、ウィンドウズ基盤の市場独占からビジネスモデルを脱却する必要にも迫られている。同社は、MSNやXboxなどの新規ビジネスを手掛けるが、その比重は相変わらず低い状況だ(Figure9)。

photo パソコン出荷は回復したが市場サチュレーションは否定できず、ソフトライセンス料にも価格デフレの波が押し寄せ、市場独占による収穫逓増も限界に近づきつつあるからだ。マイクロソフトは自社シングルプラットフォーム戦略から、Javaを含むヘテロジニアス環境でのビジネスへ転換すべき時期にあった。このように和解提携に至る環境は異なるものの、両社は技術的提携にそれぞれメリットが見い出せた。両社はウェブサービスをターゲットとして.NETとJavaの「相互運用性確保」という大義に合意した(Figure10)。

 これまで両社はeビジネスを巡っては対立を繰り返していた。たとえば、電子商取引の個人認証で、マイクロソフトは「パスポート」をOSに標準搭載し、サンは自社技術に賛同する企業フォーラム「リバティアライアンス」を結成していた。この面の相互運用性が確保されるだけでも、ユーザーやシステムインテグレータ(SIer)には大きなメリットがもたらされる。

■ヘテロジニアスに挑戦するマイクロソフト

photo 今回の両社技術提携は、巨大なウェブサービスの2大基盤であるJavaと.NETの相互運用性確保という大義があるだけに、世界の業界やユーザーには歓迎ムードが強い。この歓迎ムードも企業イメージ刷新を狙うマイクロソフトはしたたかに計算したのだろう。しかし、直近の米SIer調査では相互運用性確保という大義よりも、マイクロソフトの係争戦線の整理や企業イメージ刷新を狙ったとの見方が強いことがわかる(Figure11)。

 04年1-3月決算でマイクロソフトはサンへの和解金やEU制裁金など、特別経費25億ドル(約2750億円)を支払ったため、純利益は39%減益となった。この和解提携は、マイクロソフトが巨額を一方的にサンに支払う形で成立した。このため米国では、「株式移動はともなわないが買収に匹敵するサン支配力をマイクロソフトに与えた」というアナリストもいる。

photo 一方、サンは巨額を手にすることで、窮状から一時的に脱出できると同時に、ウォールストリートで噂されていたサン買収説に終止符を打って、サンブランドを維持することができた。しかし、支配力の強化という観点から、市場が低成長時代に突入したことによる有力ベンダー間のM&A激化の1つの例として、この提携を考える必要がある。また、両社の今後の技術提携による早急な成果は期待できないという声も米国では強いことに留意する必要があるだろう(Figure12)。

 マイクロソフトは、ウェブサービス制覇を狙ううえでは、先行するJavaとの融合は避けられない課題であった。従って、マイクロソフトはサンが他社によるM&Aの対象となる前に、この提携を具現化することが重要だった。マイクロソフトはこれまで、頑なに自社プラットフォームだけにこだわり続けた。米フォレスターリサーチのアナリスト、トム・ポールマン氏は、「マイクロソフトは寡占する市場サチュレーションによって新市場をビジネス領域とするため、Javaと自社技術のヘテロジニアス環境を取り込む決断をした」と分析する。
  • 1