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<OVER VIEW>低成長下、米国ベンダー新しい戦略を探究 Chapter3

2004/05/24 16:18

週刊BCN 2004年05月24日vol.1040掲載

 マイクロソフトと並び世界最強ベンダーであるIBMパルミザーノCEOは、IT市場が今後低成長となることを認識のうえ、IBMの高い伸びを株主にコミットした。コミットを実現するためIBMは、ビジネスコンサルティングというIT産業にとって新しい市場を取り込み、ここでの独占を狙う。IBMは自社の強力なITサービスとコンサルティングを一体化したビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシングで顧客を長期に囲い込む。同時にこの顧客ベース拡大のためライバルのチャネルリクルートを推進している。(中野英嗣)

高成長を担保する新戦略を推進するIBM

■高い成長に戦略的、裏付けをもつIBM

photo 2002年営業報告書でIBMサム・パルミザーノCEOは、これからの高い成長を株主にコミットした。現在、世界でエンタープライズ市場の強力な米国ベンダーは、サンが凋落したためIBMとHPの2社となった。IBMはパルミザーノCEOのコミットどおり、低成長下の世界市場で03年初より高い成長を示し、年間でも10%近く売上高が伸びた。IBMと競合するHPの03年伸びは1%にとどまり、IBMとの格差は拡大した(Figure13)。

 とくにIBMは主力のITサービス、サーバー、ストレージなどのシステムズ、そしてミドルウェアを中心とするソフトウェアがそれぞれ高い伸びを示した。IBMはパルミザーノCEOのコミットを実現するため、2つの戦略を同時並行で進めている(Figure14)。この戦略的裏付けをもって、IBMはエンタープライズ市場覇権を目指す。

 これまでも、IBMは世界エンタープライズでは圧倒的強さを誇ってきたが、世界的に顧客はITインフラへ投資することに消極的になっており、ハードやソフトの価格デフレは今やITサービスにも及び始めた。さらに、低成長下ではエンタープライズ市場のシェアも大きく変動しにくくなっている。このような厳しい市場動向を十分承知のうえ、パルミザーノCEOは高い成長をコミットした。

photo 03年より、IBMは成長を担保する2つの戦略を進めている。世界ITサービスでIBMは圧倒的に強いが、サービスのオフショアリングもあって価格もデフレ傾向にあり、売上高を大きく伸ばすのは難しい。そこでIBMはコンサルティング大手PwCコンサルティングを02年に35億ドル(約3800億円)で買収し、これまでIT業界の事業ではなかったビジネスコンサルティングを自社市場に取り込み、ここでの独占を狙った。IBMはコンサルティングとIT構築運用のITサービスの一体化、ワンストップショッピング体制を確立した。

 IBMは自社が提唱した顧客ビジネスプロセスを、市場動向に敏捷に対応して変化できるオンデマンド経営へ転換するコンサルティングを実行しながら、顧客ビジネスプロセスをアウトソーシングする「ビジネス・トランスフォーメーション・アウトソーシング(BTO)」という新ITサービスを自社成長の基盤事業とした。さらに、IBMはBTO受託対象のエンタープライズ見込み客を増やすため、ライバルのHP、サンの大規模パートナーを自陣営に引き入れるチャネルリクルート戦略を実行した。

 この結果IBMは、グローバルに多数のライバルパートナーのリクルートに成功した。これによってパートナーの擁するエンタープライズユーザーをIBM路線で囲い込める。

■世界IT市場の2強、IBMとマイクロソフト

photo IBMはサービスやソフトというノンハード事業に注力しているが、一方ではハード製品強化も怠っていない。とくにIBMはメインフレームを自社フラッグシップとして強化し続け、04年4月、IBMは初代のメインフレームシリーズ「S/360」40周年記念を迎え、エンタープライズのメインフレーム需要を復活させることに成功している。03年5月IBMは「究極のメインフレーム」と銘打って、超大型で9000MIPSというこれまでの最高クラスの3倍の性能をもつ「z990」を発表した。これにより、IBMメインフレームの処理能力、MIPS値ベースの出荷は急上昇している(Figure15)。

 理由はきわめて単純で、ダウンタイムゼロ、分散システム資産やIT管理コストの大幅削減に顧客が引き付けられメインフレームへの投資を活発化しているからだ。

photo IBMはハード、ソフト、サービスの強化とこの統合化によって世界市場でのプレゼンスを再度強める。現在、世界的に強力なベンダーはIBM、マイクロソフトであるとの認識が強まっている。米国ソフトベンダー、ソリューションプロバイダにもこの認識は定着している。しかし、彼らにとって、この両巨人は重要なパートナーであると同時に、脅威と感じている(Figure16)。

■直ちに効果現れたIBM戦略

 IBMは顧客をオンデマンド経営へ転換させ、これに必要なITインフラ、ITサービスを提供するという、顧客が望む「ビジネスとITの一体化」を標榜するオンデマンド戦略を強力に推進している。このIBMの狙いに合致する戦略の典型がコンサルティングとビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)の一体化したBTOである(Figure17)。

photo 顧客がBTOを利用すれば、ビジネスプロセスとIT環境両方をオンデマンドモデルへ転換できることをIBMは強調する。さらに、IBMはこのBTOの将来的プロスペクトを拡大するためエンタープライズユーザーを抱えるHP、サンのパートナーをここ18か月間に世界で400社のリクルートに成功したことをパルミザーノCEOも認めた。

 効果は現れ、IBMは03年パートナー売上高を前年比16%伸ばし290億ドル(約3兆2000億円)とした(Figure18)。パートナーが増えたことで、当然IBMサーバーの売上高も11%伸びた。とくに、03年IBMサーバーの売上高伸びが著しいのがUNIXサーバーpSeriesで、その売上高前年比は12.5%増だ(IBM営業報告書)。これは、HPやとくにサン大型サーバーのリプレースにIBMが成功していることの証だ。

photo IBMは世界的にパートナー数を無制限に増やすことはない。一定以上になるとパートナー間の競合も激しくなるからだ。さて、IBMはこれまでも世界的にエンタープライズ市場で最強の地位を確保していた。しかし、エンタープライズもIT投資を厳しく評価するようになって、これからIBMの高い成長を保証しない。マイクロソフトがサンと包括提携してJavaと.NETが併存するヘテロジニアス市場に新しい成長を求めると同じように、巨人IBMも従来からの戦略に依存したままでは高い成長を実現できない。IBMはマイクロソフトのように特定領域の寡占ベンダーではない。

 しかし、マイクロソフトと同様に世界のエンタープライズ市場での収穫逓増則が限界に近づきつつあることを認識し、新しい市場を取り込み、新しいサービスを開始した。両巨人の既存市場に対する見方は一致するのだ。
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