情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第4回 神奈川県大和市(下) 市内の施設利用や商店街の利用促進に

2004/05/31 20:43

週刊BCN 2004年05月31日vol.1041掲載

 市民の生活に役立てるために、ICカードを行政で配布している自治体は少なくない。しかし、自治体によっては利用できる分野が限られていることなどから、頻繁に活用されずに“タンス・カード”になってしまっている例も少なくない。一方で、住民基本台帳ネットワークシステム(住基ネット)の本格稼動により、住基カードの配布も始まった。総務省は、カードの普及のため自治体でのアプリケーション開発を求めている。すでに活用しているICカードの利用拡大や住基カードの普及など自治体の課題は山積している。神奈川県大和市の場合は、ICカード「大和市民カード」に電子通貨システムの機能を搭載するなど、ICカードの有効利用と地域コミュニティの活性化を図っている。(川井直樹)

ICカードに地域電子通貨を登録 コミュニティの活性化に貢献

■カードリーダーを公共施設95か所に

 大和市がICカードを導入したのは2002年4月。当初、ICカードリーダーを市役所をはじめとした公共施設95か所に約1000台設置した。「これまでのICカード配布枚数は約9万枚」(小山郁夫・大和市企画部情報政策課課長)という。ICカードの用途は住民情報系サービスと、独自の地域電子通貨「LOVES(ラブス)」系サービスに分かれている。

 住民情報系サービスは、ICカードを導入している自治体が通常行っている住民票・印鑑登録証明書の発行をカードで手軽にできるサービスのほかに、大和市役所に隣接する大和市立病院で発行した資格情報により、同病院で国民健康保険証に代用できたり、災害時は避難した場所のICカードリーダーに読み込ませれば、その場所が登録され安否確認に使用できるなどの機能がある。

 住民票の自動発行機は当初は、東京・渋谷区の大和市渋谷分室と市内の中央林間連絡所の2か所だけに設置されていた。市民サービス向上のために、市役所敷地内などにも自動交付機を設置し、午後7時までならば閉庁している時でも自動交付が受けられる。

 自動交付機は現在では5台になった。窓口での住民票・印鑑登録証明書の交付受け付けが年間8000件程度あり、これに対して自動交付は同4500件。「タッチパネルで操作するだけで、1分もかからないし、申請書類を書く手間がなくてスピーディと好評」(平山道備・情報政策課情報政策担当)で、自動交付機が増えたことで、さらに利用が進みそうだ。

■市民活動の一部を電子通貨でやり取り

 ICカード利用の一環として、大和市が地域コミュニティの活性化のために普及を進めているのが、「LOVES」系サービスだ。LOVESとは、「ローカル・バリュー・エクスチェンジ・システム」の頭文字からつけた名称。大和市の説明では、「してほしいこと」や「やってほしいこと」をラブを単位とする電子通貨でやり取りする地域価値交換システムということになる。例えば、不要な品物を誰かに引き取ってもらった場合に、引き取ってもらった人にお礼として「ラブ」で支払ったり、人に役立つことをして「ラブ」で受け取ったりできるほか、市内の商店街でも「円+ラブ」で支払ったりすることもできる。

 大和市の場合、「ビジネスの領域に、行政が関与できる限界がある」(奥津昭仁・情報政策課課長補佐)ことから、「ラブス」の運営は特定非営利活動(NPO)法人の「ラブスサポートセンター」が行っている。

 基本的にはICカードを申請し取得した段階で、1万ラブが登録されている。さらに、市の施設を利用し利用料を支払うと100ラブ登録され、市内を走る100円のコミュニティバスを利用すれば50ラブがICカードに登録される。使用期限は1年間で、使わなければ再び1万ラブに戻る仕組み。市の施設などを積極的に利用し、さらに商店街で円とラブで支払う、市民同士のコミュニケーションでラブをやり取りする、というようにあくまでもコミュニティ活性化のために機能しているわけだ。もちろん大和市以外では、何の価値も持たない。

 ただし、運用に関しては今年1月にも運用ルールを一部変更するなど、大和市側も慎重を期している。「使う側では、どうしても円との対比が生じてしまう」(村山純・情報政策課情報政策担当)ことが問題点としてある。商店街で円と組み合わせて使用できるが、それは「ラブ」を使うことに対する「割引き」という要素が本旨であり、円と同様の〝通貨〟ではないという点が強調されにくい。そのため、ICカードに最初から登録されている「ラブ」をゼロにしてしまうことも検討しているという。

 大和市では現在、試験的に土日開庁を行っている。7月には本格的に土日開庁に踏み切る予定だ。インターネットを使った「どこでもコミュニティ」や電子通貨ラブスの運用など、ITを使った市民サービスの向上だけでなく、土日でも市役所利用ができるようになることで市民の利便性向上も図っていくというわけだ。
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