情報化新時代 変わる地域社会

<情報化新時代 変わる地域社会>第7回 千葉県浦安市(上) “いつでも、どこでも”の実現を目指す

2004/06/21 20:43

週刊BCN 2004年06月21日vol.1044掲載

 浦安市が電子申請をにらみ、6月1日から申請書のダウンロードサービスを開始した。現段階では、自宅で申請書を印刷できるというだけのサービスだが、今年度末には送信ボタン機能を追加し、インターネットで申請書を送れるサービスに拡充する。来年度以降は、決済が必要な申請についても電子化する計画。「住民がわざわざ市役所に行かなくても、“いつでも、どこでも”サービスが受けられる環境を作ることが市役所の使命」(醍醐恵二・経営企画部情報政策課電子自治体推進室副主査)として、市民の利便性向上を追求していく。(佐相彰彦)

申請書のダウンロードサービス 将来はネット申請も視野に

■226種類の手続きをカバー

 浦安市が6月1日から提供している「申請書ダウンロード」サービスは、申請可能な手続きが226種類。浦安市で扱っている手続きは全部で1041種類ある。そのなかで、1年間で1000件以上の申請がある手続き約100種類と100件以上999件以下の手続き約70種類、さらにそれらの手続きと関連するものなどを中心にサービス開始に踏み切った。

 電子化した手続きは全体の約22%に過ぎないが、「浦安市の1年間の申請件数79万件弱のうち、100件以上の手続きが96%を占めている。電子申請で使われる機会が多い手続きとして厳選した」(醍醐副主査)としている。

 このサービスは、浦安市のホームページからPDF版の申請書をダウンロードするというもので、住民がパソコン上で必要事項を入力できるのが特徴。必要事項を書き込んだ申請書は、プリントアウトして市役所に提出する。

 ダウンロードを行う際は、「誕生」や「子育て」、「引越し」などから必要な様式を検索できる「ライフステージ検索」、申請・届出などの名称から検索可能な「用紙名検索」、住民登録や戸籍、税などの業務から必要な様式を検索する「業務別検索」、市役所担当窓口(課)からの「組織別検索」といった4種類の機能を設け、226種類の手続きのなかから各住民が必要とする申請書を容易に見つけられるようにした。

 利便性を高めたという点では、市役所の窓口受付時間外でも申請書を手に入れることが可能なこと。「共働きなど忙しい世帯でもサービスが受けられる」ことが最大の特徴だ。

 同サービスのアプリケーションは、市町村向けの自治体システムのコンサルティングやシステム開発・提供を事業化しているCDCソリューションズ(中尾宏行社長)が開発した。醍醐副主査は、「浦安市では、独自の手続きが全体の5割に達している。細かい要望が多い市町村ニーズに応えられる企業として、CDCソリューションズを選んだ」と、発注した理由を語る。しかも、「手頃な価格だった」ことも理由の1つであるようだ。

■“市民が満足する”が重要

 今回のサービスでは、インターネット上での電子申請や電子メールでの受付けは行っていない。パソコン上から様式に直接必要事項を入力し印刷するか、もしくは印刷してから必要事項を手書きし、担当窓口に提出するため、結局は市役所に行かなければならない。

 そのため、本格的な電子申請に向けて段階的にサービスを拡充することを計画している。「ほかの市町村では、申請書のダウンロードと電子申請を別システムで稼動しているケースがある。しかし、浦安市では電子申請を視野に入れて、今回のサービスを開始した」とし、今年度末には送信ボタンを追加することでインターネット上や電子メールでの申請を可能にする予定だ。このサービスでは公的個人認証が不要な申請から開始する予定で、本人確認のためにIDとパスワードを配布する。

 その際には、「IDとパスワードを入力してからログインするサイトが多いが、誰でも使い勝手が把握できるように、申請書を記入してからIDとパスワードを入力する仕組みにする」という。来年度以降には、決済が必要な申請書に対しても課金機能を設ける計画でいる。

 第2段階以降のサービスを提供するために、醍醐副主査は、「添付資料や枚数が多いものなど大きなデータ容量を必要とする申請書を電子化するかどうか」が課題と語る。「電子化を進めても、市民がストレスを感じてしまうのであれば意味がない」ためだ。

 また、〝なりすまし〟を防止するためのセキュリティ関連機能も必要になってくる。これについては、「ITで解決できるものに関しては導入していく」と積極的だ。

 浦安市が描く電子申請サービスは、06年度から本格稼動することになる。こうしたサービスの提供について、醍醐副主査は、「フロントシステムは基幹システムと異なり、行政内部のコスト削減や業務効率化を図るというよりも、市民が満足するサービスを提供できるかどうかが重要」と、投資対効果を市民の満足で計るしかない。効果が見えにくいだけに、役所本位のサービスになる危険性を孕んでいる。

 しかし、「インターネット上で〝電子市役所〟を新しく設けることで、市民が〝いつでも、どこでも〟サービスを受けられる社会を実現することが重要。利便性の良さを理解し、これまで市役所にさほど訪れなかったり、市からの情報に見向きもしなかった市民が積極的に情報収集を行い、街を良くするための活動に参加するといったことにつながる」(醍醐副主査)と判断している。なぜなら浦安市では、「統合型GIS(地理情報システム)」の提供により、〝市民参加型の街作り〟に成功したという実績があるからだ。
  • 1