変貌する大手メーカーの販売・流通網

<変貌する大手メーカーの販売・流通網>第9回 ソニー バイオシリーズを一新

2004/07/05 20:43

週刊BCN 2004年07月05日vol.1046掲載

 ソニーは今年度(2005年3月期)を全社的な「基礎固めの年」(出井伸之会長)として、バイオシリーズについてもラインアップを一新した上で、販売、製造、物流のSCM(サプライチェーンマネジメント)改革を推進している。ソニー商品のマーケティング・セールスを担当するソニーマーケティング(SMOJ)は、この改革に合わせ、パソコン量販店など店頭の販売支援の見直しを開始した。パソコンやAV(音響・映像)機器の出荷と在庫のオペレーション管理を強化し、「決して低価格には走らず、高付加価値品を提供する」(宮下次衛・SMOJ社長)と、他社と一線を画す戦略を打ち出している。(谷畑良胤●取材/文)

SCM改革で復権目指す

■EMCS、SMOJ、SSCSでバイオをカバー

 ソニーは昨年10月28日、2006年度(07年3月期)をめどに営業利益率10%を目指すグループ変革プラン「トランスフォーメーション60」を発表した。これに基づき、今年に入ってからは、パソコンとAV(音響・映像)機器などの分野で、商品群やコンセプトをリニューアルしたほか、販売、製造、物流のSCM(サプライチェーンマネジメント)を大幅に見直すなど、グループ全体の事業改革を本格化させている。

 現在、バイオなどソニー商品に関しては、ソニー本体が基本設計や共通ソフトウェアを企画し、連結子会社の「ソニーイーエムシーエス(EMCS)」が量産設計や生産をしているほか、商品のマーケティング・セールスを「ソニーマーケティング(SMOJ)」が、物流全般を「ソニーサプライチェーンソリューション(SSCS)」がそれぞれ担当している。

 このうち、コンシューマ向けとプロフェッショナル向けのソニー商品の販売・流通を担当しているSMOJはここ数年、新商品の発売などに対応して社内組織を順次変更してきた。SMOJの販売体制に関しては、00年2月に「ソニースタイル」というネット販売を開始したほか、02年4月にIT関連商品の企業向け販売を担当する専属のビジネスユニットを新設し、直販と大手ディストリビュータを通じたパソコンなどのチャネル販売を強化し始めている。

 だが、ネット販売など新たなチャネルは緒についた段階で、バイオ全体の売上高の数%に過ぎない。依然としてSMOJが担う販売・流通の中心は、パソコン量販店向けの直販が主体である。

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■量販店向け販売で対象を3つに分類

 量販店向け販売では、(1)ビックカメラやヨドバシカメラなど「大手量販店」、(2)ソフマップなど「コンピュータ専門店」、(3)ソニー商品専売の「ソニーショップ」や他社の特約店など「地域家電店」の3つに分類して、地域の営業本部などが販売を展開している。量販店向け販売は、他社と違い大手ディストリビュータを介さず、100%直販という体制。そのため、SMOJの宮下次衛社長は、「量販店向け営業に関しては、商品カテゴリーで分類した営業担当者を配置するなど、より専門性を高める」と、ソニー商品が持つメッセージを店頭で上手く伝える方法を常時検討しているという。

 ソニーは今年5月10日、もう一度パソコン市場を活性化するため、「バイオビジネス 第2章へ」と題し、バイオの10シリーズをすべてリニューアルした新商品を発表した。バイオは7年前に他社に先駆けAV機器とコンピュータを融合して、個人ユースをメインのコンセプトに商品展開してきた。

 しかし、パソコンが家庭のなかにあることが当り前となり、生活に定着することでパソコンというカテゴリーが鮮度を落とし、同社のパソコン販売も一時期の勢いを失った。

 そこで、「さらなる市場拡大を目指すには、新たな刺激が必要だった。従来のパソコンやAV機器にできなかった“高次元のAV体験”を提供する」(SMOJの北村勝司・ITネットワークプロダクツマーケティング部VAIOMK課統括課長)と、新バイオの投入により起死回生を狙っている。

 新バイオでは、パソコンと連動するネットワーク型AV機器もバイオブランドとして提案。5月15日から順次、デスクトップ型、ノートブック型、ポータブルミュージックプレーヤーの3つの商品群に分け、全52機種が発売されることになっている。

 また、新バイオはコンセプトカラーを一新、従来の紫から黒の「バイオブラック」に変更した。これに合わせ、各店舗のパソコンコーナーには、顧客の目を引くバイオブラックのコーナーを設け、ガイドブックや総合カタログを用意。黒を基調にした宣伝・広告を行い、「顧客に“店頭に見に行ってみよう”という意識を呼び起こす仕込みを順次進めている」(北村統括課長)と、店頭販売の支援を強化している。

■製販・物流一貫体制の「クローバー」システム

 ソニーは06年度で創立60周年を迎える。その節目に向け計画されたのがグループ変革プラン「トランスフォーメーション60」だ。同プランの発表後、しばらくしてバイオも一新し、それと同時に、ソニーとSMOJ、EMCS、SSCSの4社は5月17日、量販店の実売に即応した販売、製造、物流体制を支える新情報システム「クローバー」を稼動させた。

 クローバーは、最終顧客の需要動向を起点とした製販・物流で一貫した体制を築く「デマンドチェーンマネジメント(DCM)」と呼ぶ独自のSCM。精度の高い納期や販売予測、流通在庫をリアルタイムに把握した生産供給、メーカー在庫を最小化する物流などのオペレーションを効率化し、4社合算で年間約140億円のコスト削減と国内在庫を約3割圧縮することを狙う。

 一方、SMOJは02年4月、企業向けパソコン販売として初めて、社内に専属のビジネスユニットを新設した。この新組織では、ソニーが得意とする放送・通信関連分野の企業を中心として、直販とダイワボウ情報システム(DIS)や大塚商会など大手ディストリビュータを通じた販売に着手した。従来は放送業務用機器と合わせてパソコンをチャネル販売していたが、業務用以外のIT関連商品も一般企業向けに拡販を行っていく。だが、まだ実績は少なく、今後についても「システムインテグレーションの機能を自前で持つなど、システム構築事業までは検討していない」(SMOJの広報部)という。

 ソニーの出井会長は5月19日の経営方針説明会で、「04年度は基礎固めの年」とし、05年度以降に販売攻勢をかける方針を明らかにした。「バイオ復権」のためにパーソナル市場でのシェアアップだけでなく、企業向けビジネスをどう開拓していくかなど課題は多い。<
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