コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第12回 奈良県

2005/06/27 20:42

週刊BCN 2005年06月27日vol.1094掲載

 近畿2府4県の中にあって、奈良県の情報サービス産業の基盤は最も小さいと言わざるを得ない。地場産業は規模的にも小さいものが多く、その他の産業の集積もない。情報サービス産業の構成も、他の都道府県のようには成り立ち得ない。それを踏まえたうえでの構造改革やビジネスモデルの構築が進められている。(光と影PART IX・特別取材班)

県内市場の小ささをバネに 新たなビジネスモデル模索

■基礎乏しい情報サービス産業

 「もともと、奈良県に本社のあるシステムインテグレータ(SI)など情報サービス産業に関わる企業は、統計などのデータに表れにくい形だったが、実感として関連する事業者数はデータ以上に減っているのではないか」

 奈良県内の関係者は、異口同音に指摘する。経済産業省の特定サービス産業動態統計によると、2003年調査では、事業所数6、就業者数352人、売上高63億9900万円で、いずれも近畿2府4県のなかでは最低。02年調査と比べても、事業所数、売上高ともに減少している。

photo

 大阪や京都へは通勤圏にある一方、情報サービス産業の集積は低く、どちらかといえば人材供給拠点のような位置付けになっている。「奈良県を市場として見た場合でも、東大阪の企業がカバーできるため、ビジネスとしては成り立ちにくいのでは」と指摘する業界関係者もいる。

 奈良県としても、商工労働部に新産業創造課を置くが、企業誘致やベンチャー支援などが主体であり、情報産業にターゲットを絞った施策を展開しているわけではなく、県内情報産業の実態を把握しているわけでもない。

 「かつては、パソコンというものから教えなければならなかったが、今では誰でも知っている。地元企業は大事な顧客だが、数も規模も限られるため、従来のようなビジネスの継続は難しい」と指摘するのは、奈良情報システムの間処陽一社長。同社は、大手ベンダー製のハード・ソフトの販売からオリジナル製品の開発に軸足を移し、構造改革を進めている最中だ。

 オリジナル戦略の第1弾は、3次元CAD/CAM(コンピュータによる設計・製造)向けソフト。従来は、精密機器メーカーなどが自社開発していた高精度CAD/CAM分野に取り組み、ナノ精度でNC(数値制御)データを作成できるソフトを開発した。「誰も手を出さない分野を狙った。他社はミクロンレベルだが、当社はナノレベル。レンズなどの光学系で必要な数式曲面データで威力を発揮する。市場は大きくないが、価格面でも高い収益性を維持できる」(間処社長)としている。さらに、従来の近似計算方式の汎用CAD/CAMと数式計算方式を融合させる技術開発にも目途が立ってきたため、対象となる領域も広がる見通しになっている。

 構造改革のスタートとして取り組んだCAD/CAM分野の技術開発が一段落することを踏まえ、新たな領域の開拓に乗り出している。FA分野からOA分野への展開の柱となるのが、ウェブベースのシステム開発。こちらの第1弾は、子供の安全を守るための不審者情報連絡システム。市町村などの自治体をターゲットとしており、秋口にもパッケージ販売のほか、ASP(アプリケーションの期間貸し)によるサービスも手掛ける考え。「保護者などの携帯電話に情報を提供するが、10分以内に発信でき、大規模な自治体なら地域を選択したうえで情報発信をするなど、使い勝手も良く、サービス料金も安くできる」(間処社長)という。

 今後、業務管理やコミュニケーションツールなど、OA分野の第2、第3弾も計画中。販売についても、SIとして利用してきたチャネルを逆ルートで活用し、代理店に販売してもらうことも計画している。「従来型のSI業務を減らし、その人材をウェブ系の開発にシフトした。しかし、SIの既存顧客はコアとしては重要。そうした顧客に使ってもらえる、また中小企業のIT化を進められるようなオリジナル製品の開発」(間処社長)がターゲットだ。

■メリットは事務所経費や人件費の安さ

 「奈良県に本拠を置くのは、事務所経費や人件費が安いため。営業的なメリットがあるわけではない」と言うのは、受託開発を中心とするシーパックスの東直哉社長。実際、売上構成においても奈良県の占める比率は2割程度に過ぎない。「事業立ち上げ時も、京都で人を集めたし、現在の協力会社も大阪や京都の会社を活用している。ソフトの保守はオンラインでもできる」(東社長)と奈良県に対するこだわりはない。一時は、大阪や東京に本拠を移すことも考えたというが、生産拠点としての優位性を優先した。

 こうした考えは、オフショア開発に対する取り組みにも表れている。「前面に展開する企画や開発などのコア部分は奈良だが、それだけでは戦えない。後方から大砲を発射する火力部隊が必要。それがオフショアになる。単にコストを抑えることが目的ではない」(東社長)と言う。国内の協力会社をあてにできない場面もあるだけに、自前の戦力を持つ必要はあるが、会社の規模から考えて国内では困難。そこで、フィリピンのセブ島に合弁会社を置いた。

 同時に、国内では研究開発部門を置く余力はないが、海外なら可能ということもあった。英語の通じるフィリピンなら、日本より早く米国の大手ソフト会社の動きに対応できるというメリットもあった。日本の前衛とセブ島の後衛の手によるオリジナルのプロジェクトマネジメントコラボレーションウェア「Compass(コンパス)」は、ネット販売のみだが、国内外で30本を販売している。「自社開発のパッケージ製品を作ることは、販売や新技術の実験、付加価値を高めるという側面からも重要。今すぐにオリジナルだけで食べてはいけないが、投資可能な範囲で手掛けていく」(東社長)と言う。

 今後は、セブ島の合弁会社を増強し、それに合わせて日本の前衛部隊を強化する方針。ただし、国内の開発については、社員を増やすより、協力会社との関係を強化する。社員は、プロジェクトマネジメントと自社開発を主に担う。「当社はオフショア開発を謳っているが、それによってコストを半分にしますとは言わない。全部を国内開発にした場合と同じ品質を、少しでも安く提供できるということを訴求していく」(東社長)考え。そのための奈良本社であり、オフショア化推進ということだ。今後の体制整備の方針も、その延長線上にある。
  • 1

おすすめ記事