経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>2.IT経営応援隊

2005/08/08 16:04

週刊BCN 2005年08月08日vol.1100掲載

 経済産業省は、中小企業のITを活用した経営革新を推進するIT経営応援隊(原邦生会長=メリーチョコレートカムパニー社長)事業で、成功事例の自立的な創出サイクルの確立を目指す。同事業では来年度末までに約500の成功事例の創出を計画。再来年度以降も継続して成功事例を輩出できる仕組みづくりに取り組む。

成功事例の創出サイクル確立目指す

 IT経営応援隊は3年間の事業で、来年度には終了する予定。昨年度は応援隊のなかでITを活用した経営革新の成功事例を約100件選出する「IT経営百選選考委員会」を立ち上げ、選出結果を今年4月に公表した。来年度末までには成功事例を500件集め、その後は成功事例が各地域で自立的に創出できるサイクルの「仕組みづくり」(野口正・経産省商務情報政策局情報化人材室長)に力を入れる。

 ITを活用した優秀な事例を創出するために“教科書”や“指導要領”などのテキストの充実を進める。昨年度は応援隊のなかで「教科書作成委員会」を組織し、中小企業向けの教科書「これだけは知っておきたいIT経営2005年β版」を制作。同時にこの教科書の指導要領などをまとめた「IT経営支援マニュアル2005年β版」を今年4月に制作した。今年度末までにはこうした教科書や指導要領の内容をさらに見直し、“完成版”を制作する予定だ。

 昨年度の主な成果物として、IT経営百選の事例創出とβ版の教科書を制作したことで、「基盤となる材料が揃った」(商務情報政策局情報処理振興課情報化人材対策係)段階に至ったと評価する。今年度から来年度にかけては、成功事例となった中小企業経営者によるセミナーの実施や、IT活用型の経営革新を指導する教材をフルに活用することで、来年度末までに約500の成功事例の創出を目指す。

 IT経営百選選考委員会では、今年度、「IT経営百選最優秀賞育成プロジェクト」を実施する。これは、IT経営百選の奨励賞に相当するIT習熟度・活用度の企業のなかから、最優秀賞に相当するレベルにIT経営習熟度を高める“育成支援事業”。支援企業については公募を行い20社程度を採択する。採択した企業向けにIT経営百選選考委員会の委員によるコンサルティングを行う。こうした活動を通じて、「企業が習熟度を高めていくプロセスを手記としてまとめて公表する」(情報処理振興課)予定だ。

 地域の経済産業局を通じて、その土地に根ざした成功事例創出サイクルの仕組みづくりにも力を入れる。IT経営応援隊では、北海道から九州までの8か所の経済産業局と沖縄総合事務局経済産業部が中心となり、地域に密着した活動を展開している。予算配分では全国一律の配分は行わず、各経産局内に組織されたIT経営応援隊から事業案を募集し、有望な事業に対して重点的に予算を配分する。

 地域の応援隊活動に関連する今年度の予算約1億5000万円のうち、上期は1億円強を配分し、下期は4000万円強の予算を配分する予定。

 この結果、「地域支援コミュニティ形成事業」など有望な提案を行った関東IT経営応援隊が上期の予算として約3100万円を獲得し、その次に「中小企業支援産学協同フォーラム事業」などを提案した北海道IT経営応援隊が同約1600万円を獲得した。東名阪の地域と比べると、北海道の経済規模は小さい。しかし「提案の内容で予算配分を決めた」(野口室長)と、より実効性が高いものに手厚く予算を振り分けた。下期の提案募集は7月末で締め切られ、有効性が高い順に追加配分していく予定だ。

 今年度から来年度に向けて力を入れる点は、成功事例の自立的な創出サイクルの確立である。来年度でIT経営応援隊の事業が終了した後でも、ITを活用した経営革新の成功事例が拡大再生産される仕組みづくりに取り組む。その一環として、関東IT経営応援隊では「地域支援コミュニティ形成事業」と題した成功事例の自立的な創出サイクルの確立に取り組んでいる。

 同事業では、ITコーディネータなどが組織する民間非営利活動(NPO)法人の「長野県ITコーディネータ協議会」や「ITC群馬」、「シニアSOHO普及サロン・三鷹」など10団体を提案公募形式で採択した。今年度はこうした取り組みに磨きをかけ、地域でのサポート活動のベストプラクティスを目指す。

 来年度に向けて中小企業のIT経営を支援する地域に根ざした支援組織の整備をさらに進めることで、IT経営応援隊の活動が終了した後でも、地域の支援組織が自治体や金融機関などと連携した中小企業のITを活用した経営革新を自立的、継続的に支援できる仕組みをつくる。他の地域でも継続可能な成功事例創出サイクルの構築に力を入れる方針だ。(安藤章司)
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