経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>3.IT産業再建

2005/08/15 16:04

週刊BCN 2005年08月15日vol.1101掲載

 「カンフル剤」から「漢方薬」へ――。  景気改善の兆しが見えるなかで、「景気浮揚策のカンフル剤を投入する時期は過ぎつつあるのではないか」という議論が経済産業省のなかで活発になっている。中小企業向けのITを活用した経営革新の支援やIT投資を優遇する税制などの取り組みを積極的に行ってきた経産省だが、ここにきて、需要刺激のカンフル剤ではなく、IT産業そのものの体質を改善する“漢方薬”的な政策を求める動きが強まっている。

“カンフル剤”から“漢方薬”へ

 経産省は、IPA(情報処理推進機構)などと連携して、中小企業のITを活用した経営革新を支援する「ITSSP(ITソリューションスクエアプロジェクト)」や「IT経営応援隊」、IT投資を優遇する税制「IT投資促進税制」などを実施してきた。大手企業に比べてIT化が遅れがちの中小企業に向けてITの活用を広める活動は、見方を変えればIT産業にとって新しい需要を創出することにもつながり、中小企業とIT産業の双方の活性化に大きく貢献してきた。

 こうした一連の政策は、国のe-Japan戦略とも連動し、中小企業のIT化の底上げに一役買ってきた。しかし、日本経済全体に改善の兆しが見えており、政府や中央省庁が行う景気対策や需要創出策に「景気対策は一定の役割を終えた」(同)とする声も聞こえてくる。期間を限定して集中的に行う景気対策は即効性があるものの、それと同時にIT産業そのものの構造改革を進めていくことが、IT産業の持続的な発展に結びつくという考え方だ。

 国内のIT産業の国際競争力の低さを端的に示しているのが、ソフトウェアの輸出入の比率である。2003年では輸入が約2900億円なのに対して、輸出はわずか約92億円。輸出と輸入の比率は約1対30と大きな開きがある。この差を縮めるには国内のソフトウェア産業の国際競争力を高めるしか方法はない。短期集中型の景気対策は、カンフル剤としての効果はあっても、国際競争力を高める抜本策とは言い難いのが現状だ。体質そのものを改善する“漢方薬”が求められている。

 漢方薬処方の中心的な役割を果たすのが、04年10月、IPAが設立した「ソフトウェア・エンジニアリング・センター(SEC)」である。ソフトウェアの開発力強化に取り組むとともに、その成果を実践・検証するための先進ソフトウェアの開発プロジェクトを産官学の連携のもとに展開。国内ソフトウェア産業の国際競争力を高め、技術開発の推進・国際標準獲得の中心となる人材の育成を図っている。経産省ではIPAの活動に予算を割り当てるなどしてソフトウェアエンジニアリングの推進をバックアップしている。

 こうした活動のなかで、経産省が重視するのは、国内のIT産業が主導的な立場で国際標準を策定できるマーケティング力、技術力を持った人的資産の創出である。ソフトウェアの輸入比率が際立って高いのは、ソフトウェアの基盤となるアーキテクチャや技術の大半が海外のIT産業の主導下にあることが大きな要因となっている。OSやデータベース(DB)、ミドルウェアなどの多くは海外ベンダーが開発しており、こうした基盤の上でのビジネスは「限界がある」(石塚康志・経済産業省商務情報政策局情報処理振興課課長補佐)とし、自ら国際標準を創り出す“自助努力”が必要だと指摘する。

 もっとも、今から日本発のOSやDBのパッケージソフトを作るのは現実的ではない。そこで、誰もが主体的に参加できるオープンソースソフトウェア(OSS)に着目している。現在、経産省とIPAのソフトウェア開発事業として「オープンソースソフトウェア活用基盤整備」があり、今年度は約8億5000万円の予算を割り当て、OSSの利用環境や開発環境の充実を通じた普及促進を図っている。

 また、国際競争力のあるソフトウェア開発に欠かせない“生産設備”の整備にも力を入れる。液晶パネルや自動車など国際競争力があるハード分野には、大がかりな生産設備がある。液晶パネルを生産するシャープの亀山事業所(三重県亀山市)は、競争力の向上に大きく貢献しており、「何もないところから競争力のある製品が出てくるわけではない」(同)と、生産設備の重要性を指摘。ソフトウェア開発で生産設備に相当する“人的資産”の拡充が欠かせないと話す。

 経産省とIPAでは、IT関連サービスの提供に必要な能力を明確化・体系化した指標「ITスキル標準(ITSS)」や、組み込みソフトウェア版の「組込みスキル標準」の策定などを通じて、人的資産=生産設備の標準化に取り組んでいる。「カンフル剤」から「漢方薬」へ――。IT産業の国際競争力が高まれば、ITを活用する中小企業の競争力も必然的に高まり、中長期的な経済効果は大きいと考えるべきである。(安藤章司)
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