視点

通信と放送は融合できるか

2005/09/19 16:41

週刊BCN 2005年09月19日vol.1105掲載

 前回「IP放送を邪魔するテレビ局」を書いてから、通信と放送の融合をめぐっていくつか情勢の変化があった。NHKが7月からIP放送向けに、過去に放送した番組のなかで権利処理の終わった番組を配信することにした。

 NHKに続いて日本テレビ、フジテレビジョンも、過去に放送した番組をIP放送に配信する意向を表明した。7月末には、総務省の情報通信審議会から、地上波デジタル放送を光ファイバーなどブロードバンド通信環境を利用して配信することを容認する中間報告が出た。

 いずれも通信と放送の融合を加速するものだと評価されている。だが、NHKが配信する番組は当面6タイトルだけ。ネットに流すための権利処理が済んだものに限られる。番組の出演者、演奏家、作詞・作曲家など関係者の許諾を得られたものに限られるからだ。ドラマなど関係者の多い番組について、再送信の許諾を得ることが非常に難しい。このため経団連はネット配信への許諾を得やすいようにする情報システムの構築を提言したが、現実に許諾をすべて得る作業は容易ではない。

 中間報告は、ブロードバンドで地上波デジタル放送の再送信を容認したが、それは地上波デジタルを送信するアンテナを設置するとコスト高になる過疎地に限られている。2011年アナログ放送停止まで、地上波デジタルが全国どこでも受信できるようにすることは、現状の普及テンポでは不可能に近い。だから通信業界の力を借りて普及を加速しようという狙いがある。

 しかし、通信業界にとっても、過疎地に光ファイバーを敷設することは同じようにコスト高になる。放送業界で負担できないものは通信業界でも負担できない。通信業界に何らかのインセンティブがなければこの構想は実現しない。番組がIP放送されると、番組がインターネットを通じてどこでも受信できる。そうなると地域ごとに免許された放送の県域免許が崩れる。放送業界は域外に放送が流出しない配信方式を導入することを求めている。これも通信業界から見ると余計な負担になる。

 視聴者にとってどの受信方式がいいのか。都市の難視聴地域か、過疎地か、マンションか一戸建てか、光ファイバーかADSLかCATVか、受信地域、視聴環境によって異なるはずである。どれが最適なのか、視聴者が選択できるようにすることが優先されるべきである。
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