経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策

<経営革新!SMB 新フェーズを迎えるIT施策>最終回 もりもと

2005/12/19 20:29

週刊BCN 2005年12月19日vol.1118掲載

 かつて酒類販売業は、免許制度に守られ、古い商習慣のなかで事業活動を行っていた。しかし、規制緩和の波が押し寄せ、環境は激変してしまった。こうした変化にIT武装で対応し、好業績を上げているのが、大阪の高槻市を地盤とする「もりもと」だ。

酒類販売の古い体質がITで激変

 元来、同社は外販が主体だった。営業マンが、いわゆる「御用聞き」に回り、注文のあった商品を配達する。高槻市近郊は大規模な病院なども多く、医師を筆頭に、こだわりを持った上得意も多かった。支店を増やす形で営業エリアを拡大していったが、その一方で毎月20日に営業を締めると伝票整理や請求書作成に忙殺されることになる。そこで示した方針がオフコンの導入だった。

 「年商2、3億円の時代に、2000万円の銀行融資をお願いした。何に使うと聞かれ、オフコンを入れると言うと銀行マンに呆れられました」とは森本章社長。別の銀行から融資を取り付け、オフコンを導入したのは1973年。売掛金の銀行での自動振替も手がけた。1週間かかっていた請求書作成は、2時間で完了するようになった。計算ミスなども出ない。同社のIT武装のスタートだった。

 その後、支店を含めたネットワークの整備を手がける。狙いは、在庫と売掛金の管理。酒類だけでなく、食品や菓子なども取り扱うため、必然的に多品種少ロットの商品が多い。しかも、すべて賞味期限のある商品だ。また、顧客の利便性の面からは、どこの店舗からでも支払いができることは重要だった。

 もちろん、この施策は、その後の規制緩和・競争激化という流れに対応する意味でも役立った。顧客を確保していくには、注文には迅速に対応する必要がある。しかし、注文がきても品切れしていては商機を失う。その一方で、過剰に在庫を抱えると、値崩れなどのリスクもある。多品種少ロットの商品を適正に管理することがなによりも必要なことだった。現在は、全店舗のPOSデータを仕入や在庫、経理まで結び付け、一元管理を行っている。一番の売れ筋を知っているのは現場であり、データの共有化により、新たな商品の発掘などにも活用できるようになっている。

 一度動き出してしまうと、商環境の変化を押しとどめることはできない。競争に勝ち残るためには、あらゆる無駄を省かねばならない。仕入から出荷までの時間、配達時間、ついには御用聞きにまでおよぶ。店舗や外販によるリアルな商売のほかに、パソコンや携帯電話などを使ったバーチャル店舗も必要になってきた。「リアルは、店舗から半径3キロメートルの顧客に対応する。バーチャルは、全国に顧客がおり、年中無休で商売ができる」。ただし、大手のネット販売サイトを利用していては利益が吹き飛んでしまう。そこで、携帯電話の活用を選択した。

 顧客は、携帯電話から在庫や自分自身の購買履歴などを管理するデータベースにアクセスする。お薦め商品や売れ筋ランキングを知ることができる。また、ワインや焼酎など酒類ごとの専用のデータベースからは、好みなどを入力していくと、自分の希望に沿った「お薦めの一品」までたどり着くことができる。購買履歴からは、日常的に購入しているビールやお米などの商品について価格などを確認のうえ購入できる。また、リアル店舗に来店した際には、メモリスティックから来店ポイントも進呈する。通常のパソコンからの購買と同様に全国に対応できるが、リアル店舗の営業エリア内の顧客に対するサービスの向上という面でも意味がある。

 もりもとでは、一般消費者向けの携帯サービスをAサイトと呼ぶ。これに対し、近くサービスをスタートするのがBサイト。こちらは、やはり営業エリア内の顧客を対象としたものだが、一般消費者ではなく、飲食店などの業務顧客を対象としている。一般消費者と違い、業務顧客は、それぞれに酒類の取扱量が異なり、仕切り値も違う。これを携帯サービスで対応可能にしたもので、もりもとと顧客の1対1の取引専用ツールということだ。顧客はアクセスした段階で、商品ごとの仕切り値や在庫を確認し、注文できる。営業マンに連絡をとらなくても、必要なものを必要なだけ、必要な時に注文できる。Aサイト同様、利便性向上とともに業務顧客の囲い込みにも活用できるとみている。

 「昔からの商売に新しいものを持ち込み、いいとこ取りをする。ただネットに頼るだけでなく、来店につなげるのが大事」。同社の基本スタンスだ。(山本雅則)
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