──日本アイ・ビー・エム(日本IBM)はe-Japan戦略をどうとらえてきたか。

 「2001年にスタートしたe-Japan戦略を、当社では電子政府、電子自治体に医療、教育を加えた全体で見てきた。当時の片山(虎之助)総務大臣は、e-Japan戦略で1兆1000億円規模の新しいビジネスが創出されるといったが、振り返ってみて、それだけの需要が既存市場から純増したかと言えば、各社とも疑問に思っているのではないか。それでも中央省庁で年8000億円、地方自治体で年5000-6000億円、これに医療と大学を加えると年2-3兆円の市場にはなっているが…」

 ──インフラ整備は進んだが。

 「確かにブロードバンド網は上手く引けたかもしれないが、国民にとってサービスが使いやすくなったわけではない。国連統計やシンクタンクなどの評価で電子政府の順位が上がってきたといっても、国民が喜んで使っているという状況にはほど遠い」

 ──ITベンダーが果した役割は。

 「当社も、最初は何から取り組めばよいのか分からず、海外の先進事例を導入するところから始めた。電子政府・電子自治体は、基本的には国民中心型のシステムをどうつくるか、縦割りの組織にいかに横串を通していくかがポイントだが、法律改正や規制緩和、文化の問題もあって、海外で成功したからといってそのまま導入するのは難しかった。もともとIBMは官公庁のシェアが低いが、IBMが開発して米国政府が導入したEA(エンタープライズアーキテクチャ)や、最近ではSOA(サービス指向アーキテクチャ)を提案してきた」

 ──海外に比べて日本の行政サービスは国民指向にならないのはなぜか。

 「国民の方から『こんなサービスが欲しい』という自発的な要求が出ない国民性の違いによるのかもしれない。国が与えてくれるサービスで甘んじていては変わらないだろう。現在、カナダ政府が導入した行政サービス『サービス・カナダ』やオーストラリア政府の『センターリンク』が世界的にも注目され、評価が高い。例えばサービス・カナダでは、国民の側からサービス提供のあり方を見直して、それに対応して役所の組織なども再構築している」

 ──日本政府でもEAを導入したが。

 「EAといっても日本と米国では違いがある。米国のEAは非常に大規模なもので、米国政府でも同時に取り組めるのはせいぜい3つか4つ。日本は、まだ省庁単位でシステムの見直しが行われており、その点ではかなり違っている」

 ──新戦略(案)が公表された。

 「レセプト(診療報酬明細書)完全オンライン化など具体的な目標が示されたことで、IT業界にとってかなりのビジネスが期待できるだろう。ただ、各社がバラバラに過当競争をするのではなく、業界ごとに標準をつくる時期にきているのではないか。地方自治体ではASPやウェブサービスに注目し始めており、将来の広域連携なども視野に入れて基盤整備を進めないと無駄が生じる恐れもある」

 ──ビジネス展開が難しそうだが。

 「日本社会でも自動車や電機などの製造業では世界最先端のITが導入されているが、行政や教育などの分野は遅れているというように、官民で大きなギャップが生じている。どの分野に重点を置くかは各社の戦略にもよるが、学校教育でのIT活用は早急に引き上げていく必要があるだろう。韓国やシンガポールと比べて、日本ではITが学力向上のための支援ツールになっていない。教育分野のコンピュータ投資は日本ではまだ大学の比率が高いが、米国では逆に7─8割が小中高校向けに投じられている」

(ジャーナリスト 千葉利宏)