ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>7.大手ベンダーに聞く(5)NTTデータ

2006/02/13 20:29

週刊BCN 2006年02月13日vol.1125掲載

 ──e-Japan戦略を振り返ると。

 「この5年間の戦略は、確かに素晴らしい成果をあげたが、やや利用技術に偏っていたのではないか。例えて言えば、国民に運転免許証を取得させ、通信事業者には高速道路を整備させてきたわけだが、気がつくと道路を走っているのは外車ばかりになっていたと…。ハード・ソフトとも外資系に席巻され、IT産業として空洞化が進んでしまったのは確かだろう。最初の2年ぐらいは、それで良かったかもしれないが、IT基盤が整備され、これからイノベーションを起こそうという段階で、外車ばかりという状況のままでは国家戦略が欠けていたと言わざるを得ない」

 ──医療などの分野でIT化の新しいニーズを引き出すことで、IT産業も発展するシナリオだったはずだが。

 「もちろん利用技術も重要であり、新しい需要も創出されたが、組み込みソフトの重要性が高まってきたことで、いまやソフトは半導体と同じように“産業のコメ”となってきている。そのような時代を迎えて、IT産業が空洞化すれば、日本の産業全体の国際競争力低下を招きかねない」

 ──企業自身の問題では?

 「IT産業にも責任はあるが、ソフトにとって最も重要な人材育成は企業側の努力だけではどうしようもない。日本経団連主催のシンポジウムで日本IBMの役員が『世界のIBMの中で日本だけが他の国に比べて新卒者の技術レベルが3年遅れていて、余分に教育しなければならない』と指摘したことが、日本でのIT人材育成の現状を示している。IT企業なら我慢して再教育もするが、一般企業が自らIT要員を養成するのは不可能だろう。情報サービス産業協会などのIT業界団体ではなく、日本経団連自らがIT人材育成の検討に乗り出したことが事態の深刻さを物語っている」

 ──ようやく危機感が共有されてきた。

 「組み込みソフトに加えて、エンタープライズ系システムでも米国の方が日本に比べてIT投資効果が2倍ぐらい高いことが分かってきた。IT投資は米国企業が売上高の平均4%なのに対して日本企業が2%なので、少なくとも4倍もの開きが生じており、このままでは企業競争力への影響も避けられない。投資効果を高めるには、ITガバナンスを高め、CIO(情報最高責任者)の能力を育てる必要があるとの認識も広がっている」

 ──IT新改革戦略はどうか。

 「これまでに比べると、産業育成に徐々に目を向けつつあるのではないか。まだ十分ではない部分もあるが、2007年度までに産学官連携による人材育成プログラムや教材の開発を進め、その成果を活用した高度IT人材育成機関の設置を明記した点は大きい。重要なのは、産業界のニーズに対応した実践的なIT教育を実施できること。そのためには、従来にない新しいタイプの教育機関を設置し、そこでの成果を全国の大学へ移管していくといったモデルプランを提案しているところだ。最先端技術に精通した指導者の確保や産業界からの委託研究などを行うには、教育機関を分散させるのではなく、産業集積している地域に設置する必要もある。どのように具体化していくかは、文部科学省との調整がポイントになるだろう」

 ──いくら教育環境を整備しても、優秀な人材が集まらない懸念もある。

 「日本のソフト産業を強くする鍵は、国家戦略として考えること、社会の仕組みを整えること、産業界との連携を強めることの3つというのが私の持論。国家戦略と産業界との連携は、今回のIT新改革戦略と日本経団連での取り組みで実現しつつあるが、問題はIT技術者が建築士などのように社会的に認知されていない状況をどうするかだ。ITスキル標準(ITSS)も策定されたが、社会の仕組みとして認知・定着させていくには、仕事の近代化、みえる化が必要ではないか」

(ジャーナリスト 千葉利宏)
  • 1