コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第45回 石川県

2006/02/27 20:42

週刊BCN 2006年02月27日vol.1127掲載

 今年1月の日本銀行・地域経済報告において、景気回復が裾野を広げ、設備投資についても着実に増加しているとされた北陸3県。その中心である石川県の情報サービス産業は、地域全体を見据えるとともに、国内全域にアプローチしようとする動きも出てきている。(光と影PART IX・特別取材班)

新市場の開拓に向けて積極的な息吹が感じられる

■ポテンシャル発揮で存在感示す

 「自治体合併に伴う需要は一段落したが、これとは別次元での公共的な投資の動きがある。民間も富山県を筆頭に動きが出ており、事業環境はいい」

 富士通北陸営業本部の天井信夫本部長は、北陸3県の需要動向を、このように総括する。そのうえで、15年以上にわたって北陸3県に浸透してきたシステムエンジニアリング(SE)会社・富士通北陸システムズ(略称・FJH)の優位性を生かし、アプローチしていく考え。当面のターゲットは3つ。中小企業と医療機関、富山県内の有力企業だ。

 中小企業開拓では、FJHのSEと会計専門チームを組み、アプローチ手法の標準化を進めている。「白丸作戦」と名づけたこのプロセスの見直し計画は、約1年を経て実効をあげつつある。「まず会計から入り、他につないでいくことを目指す。効率的なアプローチができれば、中小企業ビジネスの収益性も高まる。会計以外にも生産管理といった別のアプローチも用意していきたい」(天井本部長)考え。

 FJHの松岡貫社長も「経験を積み、メニューを増やしたい。切り札となるのはSE。地元にいるということが、顧客の安心感を生む。地域密着の北陸モデルというものを作っていきたい」と思惑を語る。

 医療機関については、すでに大手病院に対しての実績があるため、これを中堅以下に広げるのが目標。昨年から地元のパートナーと一体となった活動を開始しているが、今年から本格化させる。「マンパワーの問題もあり、連携を強めたほうが効率的。医療機関向けは、安全第一ということが優先され、どこどこの病院のシステムはトラブルがない、ということが分かれば、信頼性が増す。大手での実績を武器に1─2年で成果を出したい」(天井本部長)という。

 各ターゲットに共通する武器は、FJHの技術力。富士通本体のミドルウェア開発も手がけ、オラクルマスター・プラチナの取得者数でも日本有数となっている。「これまでは、保有するポテンシャルを十分生かしきれていなかった面もあったが、今後はその力を北陸の顧客に提案していきたい」(松岡社長)としている。3年くらいかけて取り組みたいとする富山の大手企業開拓においても「(技術力の高さは)差別化にもつながるし、商談に役立つ。営業的にも活用したい」(天井本部長)と、同社の技術陣は大いに期待されているようだ。

 石川コンピュータ・センター(多田和雄社長、略称・ICC)は、オリジナルパッケージと自治体を中心とする県内でのシステム構築を柱に事業を展開してきた。石川県内の自治体数は今年2月時点で19と、従来に比べ半減したが、その対応策として準備してきた県外に市場を見出す施策が、実を結び始めている。その1つが医療分野。

 「医療分野は、従来からもコアだったが、純粋に強化していく。電子カルテなどのメインのシステムは大手ベンダーと組んで展開しているが、サブシステムでは、検査や検診などのオリジナルパッケージがあり、昨年までにリニューアルした。本格的に販売していく」とは、木谷光正常務。2004年に開設した東京と名古屋の支店にSEを配置、拡充していく考え。もちろん、単独での市場開拓は容易でない。このため、パートナーも活用しつつ、直販も増やしていくことになるが、「全国ブランドになることを目指す方針」(木谷常務)だ。

 もう1つの分野は、セキュリティ。いち早く、情報漏えい対策ソフト「パソコン警備隊」を商品化したのに続き、専門技術を有する企業とのアライアンスでネットワーク監視・分析の「イーグルチェイサー」も開発してきた。しかし、どちらかといえば規模の大きな事業所が対象。そこで、このほど中小企業向けのセキュリティアプライアンスを日本ルシーダと共同開発、販売を開始した。「ルシーダ・セキュアオフィス」は、20─50ライセンスの中小企業向け。セキュリティルールなどは事前に組み込まれており、ユーザーは導入するだけでいい。「北陸地域の中小企業は、まだまだセキュリティへの意識が低いが、これで大規模から中小規模までの製品が整った。しっかりしたサポート体制を作っていきたい」(木谷常務)としている。

■既成概念を脱する動きも

 新たな技術を石川県から発信しようという動きも出てきている。C-GRIPの黒口秀己社長は、「IT技術は、下支えをする技術。それによって、いろんな産業に貢献できる」と言い切る。そのための、つまりさまざまな産業においてビジネススタイルを進化させていけるようにするためのツール開発を手がけている。

 「Coda(コーダ)テクノロジー群」は、JavaWebアプリケーションの開発と実行を容易にするためのツール。プログラムソースの記述を自動化したり、モジュールを組み立てることで開発の効率化が図れる。「自動車メーカーは、手作業の必要な部分は手作業で行うが、オートメーション化できる部分は、それにより効率化している。しかし、アプリケーション開発はそうなっていない。開発を容易にできれば、習得すべきことは抑制され、業務を理解することに時間をかけられる」(黒口社長)という。HTMLベースでプログラムソースを自動生成する「CodaWeb」はすでに商品化されており、XMLベースの開発技術群は、近く完成する。

 「凡ミスは、視覚的に排除でき、バグのないものを作りながら確認できる。顧客の目の前で、意向を確認しながら改良することも可能で、プログラム開発の流れは大きく変わる」と、不破守康副社長兼CTOは指摘する。

 今後の展開について、黒口社長は「開発したCoda製品群を販売するというのも1つの手だが、それを使うというビジネスモデルもある。理念を理解してくれる会社に使ってもらうことで、共に利益を享受する。開発コストが抑えられることで、中小企業にもITの恩恵を与えることができるのでは」という。既成概念にとらわれない、新たな息吹が感じられる。
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