コンピュータ流通の光と影 PART IX

<コンピュータ流通の光と影 PART IX>拡がれ、日本のソフトウェアビジネス 第46回 福井県

2006/03/06 20:42

週刊BCN 2006年03月06日vol.1128掲載

 有力な地場産業を抱える福井県。県としての競争力を高め、優位性を確保する観点からも情報サービス産業への期待は大きい。その半面、北陸3県のなかでは、事業所数も就労者数も少ないのが実態。いかに裾野を拡大していくかが課題だ。(光と影PART IX・特別取材班)

優秀な人材の確保が不可欠と県が積極的に支援策を展開

■他県に新たな市場を見出す

 福井県の産業は、物づくりを原点として発展してきた。伝統産業である打ち刃物や漆器、陶器はもちろん、県の中核産業である一般機械や総合産地を形成する繊維産業、さらに全国生産の9割以上を占めるメガネフレームなど、いずれも高い競争力を有し、県内経済は堅調だ。そのなかで、情報サービス産業は比較的新しい企業も多く、次世代の産業として、振興の対象に位置づけられている。

 福井県内で老舗的存在であるのが、1966年設立の福井システムズ(西江潔社長、丸岡町)。県内の自治体向けを中心に事業展開してきた。しかし、3月末時点で県内自治体は、従来比で半減の17自治体となる。新たな戦略が求められるなか、当面のテーマは、県外市場の開拓だ。

 「基盤はあくまで福井県内だが、県外でも仕事を確保していく」とは、同社の郡和博取締役総務部長。そのための具体的な切り口をどこに設定するかは、これから詰めることになるが、財務会計などの分野についてはこれまでにノウハウを身につけてきた。そのノウハウを活用し、習熟度を高めていけば、収益性は向上する。

 また、自治体の周縁部分もターゲットのひとつ。総合行政情報システムの整備は一段落するが、行政サービスに関連する図書館や保健分野などは、蓄積してきた業務ノウハウが生かせる分野といえる。既存のコンペティターや新規参入企業との競合も予想されるが、「品質とサービスで顧客を確保していきたい」(郡取締役)との考えだ。

 一方、同社は民間向けについても拡充を図りたい意向を持っている。しかし、自治体向けと異なり、業務ノウハウなどでは手薄な面もある。これを補っていくには新たな人材を確保する必要もあるが、人材確保は容易でない。このため、大手ベンダーなどと連携するなかで、中長期的に育成していくというのが基本的な考えだ。ただし、自治体向け業務も含め「今後は、アプローチの仕方が変わるだけに、組織などの見直しも必要」(郡取締役)としており、人材確保や育成が大幅に加速されることもありうる。

 96年設立のパワーシステム(濱義弘社長)は、受託開発を中心に、オリジナルパッケージの開発も手がける。「主力の自動車販売・整備管理のパッケージ商品が、リニューアルのための開発段階にあり、現在は売上高の8割以上が受託開発。特定顧客に集中しないようバランス配分を心がけているが、地元の既存顧客に加え、新規の依頼がある。パッケージ開発もあり、マンパワーが足りない状況」と濱社長。当面は、パッケージ開発は必要最小限に絞り込んだうえで、受託開発を伸ばしていく考えだ。

 もっとも、受託を伸ばしたくとも、人員増強は思うようには進まないのが実情。「技術者の評価が高いため、単価は下がっていないし、大手ベンダーから直接の依頼もある」(濱社長)だけに、数を集めればいいわけではない。M&Aやパートナーの開拓も選択肢に入っているが、これとて容易ではない。顧客の多い名古屋に開発拠点を置くことも考えたが、「どうせ出るなら東京」という思いもある。その半面、「東京に出たからといって、福井の会社に人材を集めることができるか」との懸念もある。思案のしどころという状況が続いている。

 一方のパッケージ商品では、まず主力の自動車販売・整備管理ジャンルの新製品を今夏にも投入する考え。「本来なら、一定の人員を新製品開発に専念させたいが、受託開発が増え、そうもいかない。ただし、自動車関連製品は全国で300本の納入実績があり、リニューアルのニーズは強い。ネットワーク機能の付加などで、単に販売するだけでなく、横のつながりによる新しいビジネスの芽となるものを作っておきたい」(濱社長)と考えている。こちらについても、直販による営業強化を図りたいところだが、まずは代理店網の整備で対応することになるとみられる。

■人材確保のための施策に着手

 これら2社の事例だけで判断するのは早計かもしれないが、福井県の情報サービス産業においては、人材確保が大きな課題のひとつになってきていることは間違いないようだ。

 福井県では、県内産業の競争力強化の観点からも、情報サービス産業の振興には力を入れてきた。県産業労働部商業・サービス業振興課の山田俊一郎産業情報チーム総括主任は、「産業情報センターのインキュベーション施設は、常に満室の状態で、ITフォーラムにおいての技術紹介などの支援もしてきた」という。産官学連携による「メイドインふくいソフト」開発支援事業も実施しており、04年度と05年度にそれぞれ10件の研究助成費補助金を交付し、その中から各年度2件について開発助成も行っている。継続性確保を目指し、06年度も予算措置を講じていく方針だ。

 その一方で、人材育成では期待するほどの効果が上がっていない模様だ。商業・サービス業振興課の川上義顕課長補佐も「優秀な人材を集めるのには、各社とも苦労している」と指摘する。大学の情報系学科卒業生は県内で就労せず、一方で企業は大学に実践的な講義の実施を求める。つまり、ミスマッチが起こっているのだ。06年度からは、この解消にも力を入れる。「県内の情報系の学生が誰でも参加できる講座を開講し、県内の情報サービス企業の技術などを知ってもらうとともに、実践的な講義も行い、相互理解を深めたい」(川上課長補佐)考え。さらに、UターンやIターンを希望する人材向けに、県内情報サービス企業の情報を発信するポータルの開設も検討している。新卒と既卒者の双方を見据えた人材確保策の展開だ。

こうした施策がすぐさまミスマッチ解消に結びつくわけではないが、情報サービス産業の振興への思いを、官民で共有しているのは間違いない。
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