経済産業省が、斬新で魅力的な情報家電機器・サービスの普及促進を支援するために創設した「ネットKADEN大賞」の第1回大賞に、昨年9月に発売されたソニーの「ロケーションフリーベースステーションパック」が選ばれた。開発・事業責任者の前田悟ビデオ事業本部LFX事業室長に、同製品の開発経緯やネット家電の将来像を聞いた。(ジャーナリスト 千葉利宏)
──2月3日に受賞発表があった。感想は。 「かつての直属の上司で、最初に開発を指示した出井(伸之ソニー最高顧問)に受賞を報告したら『粘り通してやって本当によかった。いまニューヨークで日本のテレビ番組をロケーションフリーで見ている。今度一緒に飲もう』とのメールが届いた。大賀(典雄名誉会長)も喜んでくれて『これは革命的な商品だ。開発者に敬意を表する』とまで自分のホームページに書いてくれた」
──出井氏から指示されたのはいつか?
「1997年頃に『通信機能を装備した新しいテレビを作ってくれ!』と言われたのがきっかけ。電話機に大型ディスプレイをつけたディスプレイフォン、次に、インターネットの普及にあわせて01年にコードレステレビ、エアボードを商品化。ブロードバンド化の急速な普及を背景に、ロケーションフリーの開発に着手したのは02年からだ」
──自宅のテレビを外にいながら見れるという発想は確かに斬新なアイデアだ。 「ラジオ、オーディオ、電話などの機器が家の中から外へ持ち出され、テレビもそうなるとの発想はあった。昨年10月の出荷開始から順調に販売台数も伸び、近く台湾でも生産を開始するので出張が増えている。台湾のホテルからインターネット経由で私が好きな“みのもんたの朝ズバッ!”も見ることができるし、先日、アクセスしたら女房が家でビデオを見ていたので、パソコンから遠隔操作で一時停止させたら驚いていた」
──今後の計画は。 「まずは発売地域を拡大すること。日本、米国、台湾、今月から韓国でも出荷を開始し、5月までには欧州でも発売する。次にロケーションフリーベースステーションにつながるAVクライアントの種類を増やすこと。現在はテレビやDVDレコーダー、エアボード、プレイステーションポータブルなどだが、対応機器が増えれば、販売店にとってもベースステーションを売ることで、それに接続できる機種が売れる相乗効果が期待できる」
──何をつなげる予定か。 「戦略上まだ言えないが、欧州ではソニーエリクソンで携帯電話への対応を表明している。今年春から日本でワンセグサービスが始まるが、ワンセグ対応の携帯でなくてもロケーションフリーなら携帯に専用ソフトをダウンロードすれば、通常のテレビ番組も、自宅で契約しているスカパーも見ることができる」
──コンテンツ提供者のビジネスが縮小するのでは。 「家に居れば当然、見る権利のある映像コンテンツを外でも見れるようにしただけのこと。むしろ見る機会が増えれば、コンテンツ需要が増えるのではないか」
──ネット家電普及に何が必要か。 「重要なのはネット化して何を実現するか。デジタルホームネットワークのDLNAも必要ではあるが、単に規格を標準化して接続するだけのこと。これまでやりたかったけどできなかった新しいサービスをどう実現するか、まさに商品企画力が問われている。