ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略

<ユビキタスが日本を変える IT新改革戦略>19.かんたん電子申請の導入が活発化

2006/05/15 16:04

週刊BCN 2006年05月15日vol.1137掲載

 電子政府・電子自治体のオンライン利用率向上への取り組みが始まるなかで、TKC(飯塚真玄社長)が今年1月にリリースした「かんたん申請・申込システム」の導入数が3か月で100団体を突破した。オンライン申請では、厳格な本人確認が必要となる電子申告や登記手続きなどに注目が集まりがちだが、イベントや講演会への参加申し込みなど簡単な申請・申し込み手続きも少なくない。まずは簡単な手続きから手軽にオンライン化を実現できるTKCのサービスは、今後も自治体に広く普及することになりそうだ。

 今年1月のIT新改革改革戦略では、2010年度までに電子政府と電子自治体を合わせてオンライン利用率を50%以上に引き上げるとの目標が設定された。しかし、3月末に公表された「オンライン利用促進のための行動計画」でも、電子署名が必要な電子申告など主に個人向けのオンライン申請の目標数値は08年度で8%となっており、法人向けの利用率アップを高めに見込んでも目標達成のハードルは高いといわざるを得ない。

 行政への申請手続きは、厳密な本人確認が必要な面倒なものから、電話やファクシミリによる申し込みで済む簡単なものまで多種多様。これらのオンライン化を進めるのに、これまでは公的個人認証など電子署名が必要な高度な手続きを中心にしてシステム全体を構築していく方法が考えられてきた。TKCでも、LG-WAN経由でTKCが運営するデータセンターを利用するASPサービス「TKC行政ASP」のアプリケーションとして、最初に商品化したのは電子署名に対応した「電子申請・届出システム」だった。

 しかし、最初から高度なシステムを導入してもオンライン利用が普及していないのが実情だ。そこでTCKでは「簡単な申請手続きからオンライン化を進めたほうが住民も手軽に利用でき、地方公共団体にも業務効率化のメリットがある」(地方公共団体事業部営業企画本部電子自治体ソリューション推進部・飛鷹聡次長)と判断。従来から電話やファクシミリなどで申し込みを受け付けてきた手続きを、インターネットからも簡単に利用できるシステムを開発して、いくら使っても月額5万円の定額制ASPサービスとして提供を始めた。

 当初、TKCが見込んでいた利用団体数は、08年までの3年間で100団体程度。ところが蓋を開けると、わずか3か月で目標をクリアする予想以上の反響となった。利用料金が安く定額制であることに加え、住民も自治体職員も簡単に使いこなせる手軽さが高く評価されているという。住民にとっては、公的個人認証なども不要なので、ホームページの申込フォーム画面に直接入力するだけで手続きが簡単に済む。入力されたデータはエクセルに吐き出せるようにしているため、電話やファクシミリで受け付けた人の名簿をエクセルで管理していることが多い自治体にとっても、既存業務と一元管理しやすい。さらに手続きごとに異なる申込フォーム画面の作成も、メニューから必要な項目をチェックして選ぶだけで自動的に生成される。住民、自治体の双方に利用しやすいことが、一気に普及した理由であるのは間違いないだろう。

 TKCでは、静岡県の裾野市と牧之原市、沖縄県那覇市の3市にパイロット団体として利用状況に関するデータの協力を得ている。ある市で、サービス導入を1度だけ広報した段階で生涯学習講座・教室の申込受け付けにサービスを使ってみたところ、最初の1週間で申込件数の1割がインターネット経由となった。住民の認知度が上がり、携帯電話からの受け付けも可能になれば、利用率アップも期待できそうだ。

 「今年度中には、携帯電話からも申し込みできる機能を追加する。さらに導入した団体のユーザー会を立ち上げ、成功事例を共有することで、オンライン利用の普及を一歩でも前に進めたい」(飛鷹次長)。行政手続きのオンライン利用を促進するには、まずハードルを下げることが必要といえそうだ。(ジャーナリスト 千葉利宏)
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