システム開発の効率化最前線

<システム開発の効率化最前線>最終回 キヤノンマーケティングジャパン 複合機のXMLダイレクトプリントに注力

2006/10/02 20:37

週刊BCN 2006年10月02日vol.1156掲載

 .NETビジネスフォーラムのメンバーであるキヤノン(内田恒二社長)とグループ会社のキヤノンマーケティングジャパン(村瀬治男社長)は業務アプリケーションで扱うデータをデジタル複合機からダイレクトに取り出してプリントするソフトウェア開発に力を入れる。今年6月にはXMLを使ったダイレクトプリント用のソフト「XML DirectPrint for MEAP」(XMLダイレクトプリント・フォー・ミープ)を投入。.NETベースの業務アプリケーションとの連携も強化していく方針だ。(安藤章司●取材/文)

.NETベースの業務アプリとの連携も強化

■まずセールスフォース・ドットコムと連携

 業務アプリケーションで扱うデータを印刷するときは、これまでパソコンを使って一度データを呼び出して加工。帳票などに形式を整えてからプリンタで印刷する必要があった。印刷した書類を担当者に配布する手間もかかる。ダイレクトプリントを使えばパソコンを介さず直接的に必要なデータを印刷できる。

 担当者自らがデジタル複合機から必要な書類を指定して取り出せるため配布する必要もない。

 業務アプリケーションとキヤノンのデジタル複合機を直接的に結びつけるソフトウェアとして「XML DirectPrint for MEAP」(以下「XMLダイレクトプリント」)を今年6月に投入。XMLベースのウェブサービスに対応したERP(統合基幹業務システム)やCRM(顧客情報管理システム)、BI(経営分析ツール)など業務アプリケーションからデータを取り出すことができる。キヤノンとキヤノンマーケティングジャパン、キヤノンシステムソリューションズが共同で開発した。

 「XMLダイレクトプリント」では、まずASP方式でCRMなどの業務アプリケーションを提供するセールスフォース・ドットコムのソフトウェアに標準で対応した。ほかにも個別のSI案件としてさまざまな業務アプリケーションと連携したダイレクトプリントも可能だ。

 セールスフォース・ドットコムの業務アプリケーションは、CRMの中でも売れ筋の人気ソフトであるとともにAPI(アプリケーションインターフェース)が公開されている。このため「XMLダイレクトプリントと連携しやすいターゲット」(キヤノンマーケティングジャパンの児玉秀郷・ビジネスプロダクト企画本部DS商品企画部DS商品企画課課長)であったことなどが、標準対応の第1号とした理由だ。


■顧客との商談履歴を複合機から直接出力

 キヤノンのデジタル複合機に搭載するアプリケーションプラットフォームの「MEAP」(ミープ)が、Javaをベースとしたプラットフォームであるため「XMLダイレクトプリント」もJavaでつくった。

 だが実際は.NETベースの業務アプリケーションを利用している企業ユーザーも多数いるため、「.NET環境とのスムースな連携も実現」(キヤノンシステムソリューションズの島村康人・ドキュメントソリューション開発課課長)していく方針だ。

 現時点では.NETベースの業務アプリケーションとの連携には.NET環境とJava環境を橋渡しする仲介サーバーを立てる必要がある。デジタル複合機がプリントアウトする物理的な時間が存在するため仲介サーバーによる「スピードの低下はほとんどない」(島村課長)という。.NET環境との接続需要は今後高まっていくと見られており、将来的には仲介サーバーなしで接続できないか検討を進めている。

 「XMLダイレクトプリント」に対する引き合いは多くユーザーの関心の高さを示している。今年度(06年12月期)は首都圏を中心に営業展開を始めているが、すでに10件余りの受注を年内に見込むなど手応えを得ている。来年度からは全国的な営業展開を図るとともに他の業務アプリケーションとの積極的な連携を進めていく予定だ。

 引き合いの中身をみてみると、定期的に必ず必要となる書類や帳票の印刷需要が高いことが分かる。

 セールスフォース・ドットコムのCRMのケースであれば、これから訪問する顧客との商談の進捗状況をはじめ、過去の取引履歴、担当者情報などをデジタル複合機からダイレクトに取り出すことができる。

 わざわざパソコンに向かってデータを抽出し、帳票の体裁に整えてプリントアウトする手間が省ける。また、出張先の営業所に設置してあるデジタル複合機から最新の情報をパソコンなしで取り出せる利便性も評価されている。

 ホテルや外食サービス産業などでは宿泊や宴会の情報、従業員の勤務シフト表などデジタル複合機から簡単に取り出せる。ICカードと組み合わせればIDやパスワードを入力することもなくなる。ICカードの読み取り装置にかざすだけで自身に必要な帳票メニューが表示され、必要に応じて帳票のプリントアウトを指示できる。

 ICカードとの組み合わせにより、給与明細や各種証明書類などもよりセキュアに出力することができ、こうした書類を印刷・配布する人件費などの削減効果も期待されている。

■2010年には100億円の増収効果を見込む

 ダイレクトプリントで最大の課題は「定期的に必要になる定型データを選定し、簡単な操作で取り出せるようにするソフトウェア開発」だとキヤノンシステムソリューションズの島村課長は考える。パソコンで出力するよりも大幅に簡単な操作で帳票を取り出すことができる。「少ないボタン操作で、迅速に帳票をプリントアウトする」ことが大切だと話す。

 業務アプリケーションの中にはXMLをベースとしたウェブサービスの接続口が用意されていないケースもみられる。フロントエンド系のアプリケーションはウェブサービス対応が増えているが、基幹系システムは外部システムとの接続を想定していないケースもある。今後はアプリケーションベンダーにウェブサービスの接続口やAPIを公開してもらう働きかけの強化も必要になりそうだ。

 キヤノンマーケティングジャパンでは「XMLダイレクトプリント」の投入により2010年までにソフトウェアライセンスの販売や関連したSI、デジタル複合機の販売などで年間100億円の増収効果を見込んでいる。ダイレクトプリント需要を取り込むことでデジタル複合機の事業拡大につなげる考えだ。

.NETビジネスフォーラムの活動方針

 .NETビジネスフォーラム(松倉哲会長=東証コンピュータシステム社長)は第4期目に入る10月1日から新たな活動方針を示した。これまで.NETをベースとしたビジネスやマーケティング支援を主な目的としていたが、今後はテクノロジーに軸足を置いた活動に重心を移し変える。

 「インターネット上のサービスへのシフトなどソフトウェアの技術的な転換期を迎えている」(松倉会長)ことが理由となっている。

 本連載は今回で最終回ですが、.NETビジネスフォーラムのメディアパートナーとして今後とも最新の活動状況を随時報道していく予定です。
(取材協力:.NETビジネスフォーラム)

「プロジェクト革新!!システム開発の効率化最前線」は、今回で終了します。ご愛読ありがとうございました。
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