「2010年度に売上高3000億円、営業利益率10%」──ここにきて、情報サービス業界の有力企業が一様に掲げる目標だ。先にアルゴ21の株式公開買い付けを発表したキヤノンマーケティングジャパン(キヤノンMJ)の村瀬治男社長も、会見で「ITサービス売上高3000億円がSIerとして勝ち残るボーダーライン」と強調した。1000─3000億円台に約30社がひしめくなか、勝ち残りをかけてトップ集団の再編が始まるとささやかれている。だが、なぜ「売上高3000億円」が目安なのか。規模の競争が情報サービス業の新しいグランドデザインに結びつくのだろうか。(佃均(ジャーナリスト)●取材/文)

規模拡大がM&Aに直結

■アルゴ21の上場廃止も視野

 5月16日午後4時半、東京・大手町の日本経団連ビル9階。「株式会社アルゴ21株式に対する公開買い付けの開始に関する会見」会場には、息せき切って駆けつける記者も少なくなかった。

 発表によると、キヤノンMJは5月17日から6月14日までの21営業日の間に、株式取引市場を通じてアルゴ21の株式を1株1400円で買い付ける。買い付け予定株式数は580万株で、これはアルゴ21の発行済み株式総数の54.21%に相当する。ただし買い付け株式数に上限を設けないため、結果次第ではアルゴ21の上場廃止もあり得るとしている。また2008年度をめどに、既存子会社のキヤノンシステムソリューションズ(CSOL、旧住友金属システムソリューションズ)とアルゴ21との統合を検討するという。

 キヤノンMJは昨年4月、キヤノン販売から社名を変更し、今年3月に蝶理情報システムを買収したばかり。グループにキヤノンソフトウェア(東証2部上場)、キヤノンシステムアンドサポートなど20社を抱え、従業員総数は1万6000人(06年12月末現在)、連結売上高は9100億円(07年12月期予想)。2010年のITサービス関連売上高を3000億円とする「ITS3000計画」を推進している。

 一方のアルゴ21はグループ5社で従業員総数は1200人、連結売上高は242億円(07年3月期)。2年前まで創業者・佐藤雄二郎氏が情報サービス産業協会の会長を務め、現在も太田清史社長が同協会副会長の職にある。

 ここ数年の業績低迷で“独立系SIerの雄”とのイメージは薄らいだものの、06年度決算は増収増益で、着実な回復基調にある。実際、5月9日に行われた決算説明会でも、太田社長は2010年度に売上高を350億円、利業利益率10%を目標とする「2010年計画」を発表したばかりだった。

■やせても枯れてもオトコ

 キヤノンMJの村瀬社長は会見で、「ITS 3000計画の達成が、SIerの第2グループに入る必須条件」と強調した。またアルゴ21の太田社長は、「独自での業容拡大、体質改善を断念したということか」という質問に、「勝ち残りの方策を探るなかで、キヤノンMJグループに入るのが最善の策と判断した」と説明した。アルゴ21が持つSI力と有力顧客、キヤノンMJの営業力のシナジー効果がWinWinの関係を確実にする、という。

 ただ、会見では両社の感情のもつれがにじんだ場面もあった。キヤノンMJの村瀬氏が、アルゴ21を「今回の花嫁はたいへんな美人」と持ち上げたのに対して、太田氏は「やせても枯れてもアルゴ21はオトコであります」と切り返したのだ。

 「オトコを貫くことができなければ、ユーザーにシステム提案することなどできるわけがない。キヤノンMJとも、オトコ対オトコの関係でバチバチやっていきたい」

 この場合の「オトコ」とは、男性のことではなく、意地を貫く「漢」の意味。公開買い付けに合意した以上、アルゴ21の経営がキヤノンMJの意向に左右されるのは避けて通れない。だが、野村総合研究所(NRI)副社長という経歴が伊達ではないことを太田氏は記者団の前で見せつけた。厳しい眼で語気を強める太田氏と、苦笑するほかない村瀬氏──両社の今後に“想定外”の事態が生じないとも限らない、と見た記者も少なくなかったのではあるまいか。

 だが、仮に村瀬氏と太田氏の間に何らかの感情的なもつれがあるにせよ、今回の買収はスムーズに進むに違いない。なぜなら資本の論理、市場の原理が厳然と横たわっているからだ。会見直後、取り囲む記者団に太田氏が「従業員は今回の事態で動揺することはないと思う。むしろ将来展望が開けたので、歓迎するのではないか」と語った言葉が、すべてを物語っている。

■プライム受注の要件

 では、なぜ「売上高3000億円」か。現在の段階で明確な回答はなさそうだ。トップのNTTデータが1兆円超、そこから大きく水が開いた1000-3000億円台に約30社がひしめく。コンピュータメーカーや情報通信サービス系を加え、約50社が“真のSIer”の座をかけてしのぎを削る。「その群れから一歩抜け出すには、最低でも3000億円」という漠然とした設定だが、強いて言えば、外注を含めて総員1万人を動員する運転資金を担保する条件の一つということになる。

 各社がねらうのは、単独案件100億円超の大型プロジェクトにおけるプライム受注だ。「売上高1000億円規模の企業に、日本を代表するユーザー企業や中央省庁が100億円の案件をプライムで発注するだろうか」──こう疑問を呈するのは、CSKホールディングスの有賀貞一氏だ。大型プロジェクトを受注する資金力、プロジェクトを担保する要員動員力、コンピュータメーカーや通信サービス事業者と渡り合う体力とノウハウ。そのいずれが欠けても“真のSIer”の座は獲得できない。従業員1人当りの利は薄くても、規模が拡大すれば総利益の絶対額は大きくなる。

 「そこで初めてスケールメリットが出る。いい人材も集まるし、研究開発や新規事業に投資もできる。それまでは、とにかく規模の拡大が最良の特効薬」

 もっとも、有賀氏はそう口にするかたわらで、システム開発にエンジニアリング手法を適用することを提言し、“見えない価値”論を展開している。企業経営の立場で規模の拡大、業界として質の改革という二面作戦が、情報サービス業の新しいグランドデザインに結びつくという主張だ。

 「下請けに徹する限り、受注価額をコントロールできず、人月単価のスパイラルから抜け出せない。プライム受注に転換しなければ、勝ち残りはない」

 日本システムディベロップメントの冲中一郎社長も口をそろえる。同社は06年度売上高が405億円の中堅クラスだが、営業利益率は19%と抜群に高い。プライム受注をねらうのは中堅のユーザー企業だ。その場合でも「常に100億円以上のキャッシュを動かせる財務体制が必要」と言う。規模の拡大をねらう業界再編が、いよいよ本格化し始めた。