視点

障がい者対応に見る情報アクセシビリティ

2008/09/29 16:41

週刊BCN 2008年09月29日vol.1253掲載

 私は、一昨年から特定非営利活動法人全国視聴覚障害者情報提供施設協会(全視情協)の理事に就いており、その関係で、社会福祉法人日本点字図書館が主催する「ミニ機器展」を見学してきた。

 今年度は6回開催されているようだが、8月に私が見学した回は、おもちゃがテーマで、さまざまな玩具・遊具が展示されていた。例えばオセロでは、石がずれないように盤と石が一体となり、色を判別する突起付きの石を盤上で回転させて黒と白を入れ替えるものを見つけた。


 注目したのは、点字カラオケシステムである。通信カラオケ機とパソコンをLANで接続し、専用の点字ディスプレイをパソコンにつなぐ。通信カラオケ機からの歌詞データはソフトウェアによって点字に変換され、点字ディスプレイの突起が上下する。これを指でなぞって歌詞を読むのである。


 全視情協の理事会で聞くところによると、昨今は点字を読める人自体が減っている一方、脳活動として深い思考をするためには、点字を覚えることが有効だと言われているのだとか。そこで、この点字カラオケを使うことで、点字学習につながるのではないかと、メーカーに提案した。


 さて会場には、ニンテンドーDSを使ったゲームも展示されていた。DSと言えば液晶ディスプレイをタッチペンで操作するが、視覚障がい者はこれが使えない。会場で聞くと「大合奏!バンドブラザーズDX」というソフトは、「DX」版になって、タッチペンだけでなくボタンにも対応して楽しめるようになったらしい。他のソフトでもボタンを使えるようにして欲しいという要望も聞いた。


 ニンテンドーDSは他でも活躍していて、例えば、聴覚障がい者は映画を見ても台詞や音楽が聞こえない。そこで、台詞は字幕を付ける一方で、効果音や音楽はニンテンドーDSの通信機能を使って、映画を見ながら、健常者がチャットで情報提供しようという考えだ。専用の映画館で9月に上映される山田洋次監督の映画「母べえ」で試みられるそうだ。


 ACCSの会員にはゲームメーカーやソフトメーカーが多い。私は、障がいを持つ人の要望を会員企業であるソフトメーカーやコンテンツメーカーに伝えていきたい。それが、会員企業が開発するソフトウェアやコンテンツに関して、健常者も含めた情報アクセシビリティの向上に貢献すると考えているからである。


 
一般社団法人 コンピュータソフトウェア 著作権協会 専務理事 久保田 裕
久保田 裕(くぼた ゆたか)
 1956年生まれ。山口大学特命教授。文化審議会著作権分科会臨時委員、同分科会国際小委員会専門委員、特定非営利活動法人全国視覚障害者情報提供施設協会理事、(株)サーティファイ著作権検定委員会委員長、特定非営利活動法人ブロードバンドスクール協会情報モラル担当理事などを務める。主な著書に「情報モラル宣言」(ダイヤモンド社)、「人生を棒に振る スマホ・ネットトラブル」(共著、双葉社)がある。
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