IT経営コーディネート 企業活性化にITCの妙手

<「IT経営」コーディネート 企業活性化にITCの妙手>69.「IT経営力大賞」シリーズ 花ホテル 滝のや(上)

2008/11/17 16:40

週刊BCN 2008年11月17日vol.1260掲載

“Web2.0的”地方旅館

 福島県会津若松市から、車で西に30分ほど走ったところにある会津柳津町。そこで旅館業を営むのが「花ホテル 滝のや」だ。赤べこ発祥の地であり、人口4000人ほどの小さな町で、30年以上お客を迎え入れ続ける。支配人の塩田恵介氏は3代目。従業員はすべて家族で、全客室8室のこぢんまりとした旅館を約20年間切り盛りしている。

 一見すると、どこにでもありそうな地方の老舗旅館。ただ、宿泊客を増やすために、ITを裏で有効活用している。その取り組みは、一般のホテルや旅館では見られない、一風変わったものである。経済産業省の「平成19年度中小企業IT経営力大賞IT経営実践認定企業」に選ばれ、東北経済産業局からは「東北IT経営実践オピニオンリーダー賞」を贈られた。地方旅館の支配人が、ITコーディネータ(ITC)である山口康雄氏(フクジンコンサルタンツ)の協力を得て進める、コストをかけないITの活用事例をみてみよう。

 観光客数の減少に建物の老朽化が重なり、宿泊客の取り込みが困難になっていた2000年前後、塩田支配人はITに着目する。PRポイントの24時間温泉かけ流しの露天風呂や地元料理、近くの観光名所情報をインターネットに公開。新たな宿泊客を取り込もうとインターネット予約機能なども付加したホームページを開設した。地元のパソコン教室に通ったり、会津若松市内のホテルをノウハウを学びに訪ねたり……。「しばらくの間は試行錯誤」(塩田支配人)だったが、1年後には合計1万アクセスを超えるようになった。ただ、これで終わらないのが塩田流。一般的な旅館やホテルにはないような、オリジナルコンテンツ作りを始める。

 例えば、ブログ。塩田支配人の妻で若女将を務める美紀さんは、漫画「花のやでございます」(講談社刊)の題材になり、地元では有名人だ。有力コンテンツになるとみて、「女将ブログ」を開設している。そしてSNS。元は会津大学生が開設したものだが、滝のやのスタッフや宿泊客が参加するようになり、いつの間にか滝のやに関連する人のネット上の集いの場に。塩田支配人は、このSNSを通じて旅館のオススメ情報などを日々公開し、一度訪れた宿泊客をフォローしている。SNSのメンバーはすでに700人を超えている。

 これらの成果があって、今では予約客の70%はホームページ経由となった。「Web2.0」と、かつて呼ばれたブログやSNSなどを新規宿泊客の取り込みや、リピーターの創出に活用したわけだ。それだけではない。旅館で生まれる宿泊客との“リアル”なコミュニケーションと、ITという“サイバー”コミュニケーションを結びつけた「花ホテル講演会」も、滝のやの独自性が出ている。


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