われわれは、四半期ごとに中堅・中小企業(SMB)の「IT投資DI」を算出している。これは、前四半期と今四半期のIT投資額を比べた時に、「増やす」と回答した企業数から「減らす」と回答した企業数を引いた値だ。この「IT投資DI値」は、2008年後半から下がりはじめ、10年5月の時点でも、依然マイナスのままだった。しかし、マイナス幅は確実に縮小し、厳しい状況ながらも少しずつ改善の兆しをみせている。

 10年8月の内閣府「機械受注統計」でも改善傾向がみられるが、中堅・中小企業も含めた裾野の広い回復とはまだいえない状況だ。また、政争による経済対策の停滞や、円高の進行など、今後の経済環境にはたくさんの不安要素がある。とはいえ、景気回復の兆しがみえてきた現時点で、「停滞していたSMBのIT投資需要を再び喚起したい」という声も少なくない。

 では、景気が回復した場合、SMBのIT投資はどれくらい改善するのだろうか。図1は、10年5月に年商500億円未満の中堅・中小企業に対して「IT投資額を減らす理由」をたずねた結果である。
 

図1 IT投資額を減らす理由

 「予定/計画しているIT投資はあるが、不況のため延期中である」という回答は19.0%、「予定/計画しているIT投資があったが、不況のために中止をした」は5.2%となっている。つまり、景気が回復したことによって、すぐに投資を再開するユーザー企業は2割強しかいない。他の多くは「現状を維持する以外、特にITに対して投資をする必要はない」という現状維持派、すなわちITを業績改善に結び付けられておらず、ITのためのIT投資しか検討対象になっていないケースか、あるいは「IT投資の必要性は感じているが、それだけの資金力がないという、慢性的なIT投資力不足に直面しているケースのいずれかであることがわかる。

 この調査結果からもわかるように、経済状況が改善したからといって、SMBのIT投資が自然に回復していくとは限らない。「現状維持でかまわない」と考えるユーザー企業をいかに啓発し、「資金余力がない」という状態をどうやってカバーするかが重要なポイントになってくる。

 実は、ここにもう一つの落とし穴がある。例えば、いま、まさに景気回復の確固たる兆しがみえてきたとしよう。それを受けて、SMBに対して「どんなIT活用を検討していますか、望んでいますか」とたずねたとする。「PCからの情報漏えい防止」「社内コミュニケーションの活性化」「決算の早期化による業績の可視化」など、さまざまな項目が挙げられるだろう。

 ITを提供する側は、こうしたニーズに基づいて、自社のソリューションを練り上げていく。だが、SMBはある意味で気紛れだ。大企業とは異なり、「年間のIT予算を組み、粛々と執行する」というプロセスをもっていない企業が多い。経済環境がまた悪化して、自社の業績に影響が及ぶようになれば、IT投資案件の延期/中断といった判断が下されることも十分考えられる。

 冒頭に述べたように、現在の経済環境は、回復への兆しがみえているとしてもかなり弱含みであり、一本調子での回復は期待しないほうが無難だろう。ITを提供する側としては、いったん決まりかけた案件の延期/中断というリスクを常に念頭においておく必要がある。

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