石川県金沢市に本社を置き、ITサービスを手がけるシステムサポートは、毎年20%の売上拡大を目標に掲げている。しかし、工事管理ソリューション「建て役者」を中心に担当するプロダクトサービス事業部は特別だ。事業部長の大坪健一さんは、営業マネージャーとしての活躍ぶりが評価され、社長から「お前は40%を目指せ」とさらに高い数値目標を課されている。大坪さんは、「お客様の立場になって製品を提案する」ことで「建て役者」事業を黒字に導いた実績をもっており、部下に自分の真似をさせることによって、営業現場を動かしている。(構成/ゼンフ ミシャ 写真/長谷川博一)
[語る人]
システムサポート 大坪健一さん
●profile..........大坪 健一(おおつぼ けんいち)
1997年、ネットワーク構築などを手がけるNECネッツエスアイに入社。大手インターネットプロバイダの施設を日本全国に設置する技術者として活動する。ソフトウェアに興味を抱き、2005年、システムサポートに転職。営業担当として、民間企業に自社製品を販売する仕事に就いた。2010年、事業部長に就任。
●所属..........システムサポート
プロダクトサービス事業部
事業部長
●担当する商材.......... 工事管理ソリューション「建て役者」
●訪問するお客様.......... 全国のハウスメーカーやリフォーム事業者
●掲げるミッション.......... 独自商材である「建て役者」の販売拡大
●やり甲斐.......... 上層部に信頼され、他部署より高い数字目標を指示されていること
●部下を率いるコツ.......... 自分の真似をさせて成長につなげる
●リードする部下.......... 16人
笑顔を武器にしてお客様の心をつかめ
工事関連の顧客情報を簡単に管理することができる「建て役者」は、当社自慢の独自商材だ。ハウスメーカーやリフォーム事業者に提案している。私が2005年に入社したとき、「建て役者」事業は立ち上がったばかり。最初の数年は提案がうまくいかず、受注が少なかったので赤字が続いた。社長は、「建て役者」事業について撤退するかどうかの決断を迫られていた。一営業マンとして「建て役者」を担当した私は、この製品が大好きだ。社長室に行って「継続してもらいたいので、私に任せてください」と熱く訴えた。社長も私も石川県人。そんなこともあって、私の人間くさい訴えに本気度が伝わったのか、社長は私を事業部長に任命し、「建て役者」の黒字化を命じた。
営業メンバーを仕切る立場になって、なんとか赤字から脱出した。今年は、「建て役者」の売り上げが前年比31%増と、順調に伸びている。黒字化を達成した秘訣は、「お客様の立場でみたとき、『建て役者』で何ができるか」を切り口として、言葉の細かいニュアンスにこだわりながら、丁寧な提案を心がけたことだと思う。部下たちにこうした提案手法を身につけさせるために、商談の場に私が同行して、提案の現場でプレゼンテーションや営業トークの見本を示した。
私の部下16人のうち、3人が営業担当だ。彼らは東京に常駐しており、東京と金沢を行き来する私が間に入って調整し、金沢にいる開発部隊と密に連携して、精力的に提案活動を進めている。案件が順調な状況にあって、昨年、新しい営業メンバーを一人入れた。ITにあまり詳しくない30代の男性だ。私は最初の3か月、彼と一緒にお客様を訪問し、帰社後に、商談の場でわからなかったことを調べさせたり、営業トークでなぜ私がこういう言い方をしたかを説明したり、繰り返し繰り返し、営業の基礎を粘り強く教育した。
営業は、お客様に好印象を与えて信頼関係を築くことが何より重要だ。個々人が自分の「いいところ」を見つけ出し、それを伸ばすことによって、自らをお客様に売り込まなければならないと考えている。
私は、先ほど紹介した新人の部下に対して「君のいいところは笑顔だ」と伝えて、愛嬌のある笑顔を見せることでお客様の心をつかむようにアドバイスした。本人はとても喜んで、周囲に「僕の武器は笑顔だ」と、少し誇らしく言うようになっている。彼は、こうしてノウハウと自信をつけたおかげで、ここ数か月、獲ってくる案件が多くなっており、1年の間に一人前のIT営業マンに育った。
[紙面のつづき]活発な会話で新規商材の創出を促す、ジンクスを大切にする元野球部
部員を自分の子どものように思い、愛情を込めて育てていく――これが、私のマネジメント哲学だ。忙しくても部下からの相談に乗ったり、飲み会などでコミュニケーションを図ったりして、部員のモチベーションが高まるよう、明るくて笑いのある雰囲気の部署になるよう心がけている。IT企業のなかには、席が隣同士でもほとんど会話がない会社もあるという。うつで会社に来られなくなる例も聞いたことがある。こうしたことを防ぐために、私はメンバーに「最近、どう?」と定期的に声をかけて、チーム内のコミュニケーションを促すようにしている。
明るい雰囲気づくりに欠かせないのは、お酒の席での「飲みニケーション」だ。もうすぐ12月。忘年会の時期が近づいている。毎年、チームの忘年会では、年末までの売上目標を達成できなかった部員に漫才を披露してもらっている。来年こそは頑張ろうという意味も込めて、みんなで笑い、楽しいひとときを過ごすことで、メンバーの絆が強まる場にしているのだ。他部署からは、よく少しうらやましそうな声で「大坪さんの部署は会社のなかでもカラーが違うね」といわれる。
私の部署では、現在売り上げが順調に伸びているハウスメーカー/リフォーム事業者向けの工事管理ソリューション「建て役者」に加えて、独自の商材を扱いはじめた。この春、iPad向けの見積もり作成アプリケーションを開発し、業種を問わないこの商材をツールに、新規市場の開拓に取り組んでいる。このiPadアプリは、営業メンバーのアイデアから生まれ、技術部隊と密に連携して、お客様のニーズを反映しながらかたちにしたものだ。冒頭でお話ししたチーム内のコミュニケーションが実を結び、各メンバーの動きがうまくかみ合って新製品の開発につながった。iPadアプリの開発を機に、「私もやりたい」と手を挙げる人が増えていて、どんどん自分で新しい商材を考えて開発するというムーブメントにつなげたい。
今回の見積もり作成アプリは汎用型なので、メンバーはいま、ポイントを絞ってメリットを訴求する営業トークを、失敗を繰り返しながら模索しているところだ。業種特化型で提案経験が豊富な「建て役者」についてなら、一つの質問に三つの答えができるが、iPadアプリはまだ一つの答えしか出せていない。こうして、新しい商品のときの苦労もそうだが、営業というのは、どうしてもすぐに努力の結果が現れない時期がある。私はそういう時期に備えてアンテナを張り、案件が苦しくなりそうなときに、部長として第一線に出てお客様を訪問し、提案をもう一度“かき回す”ことを心がけている。
私は中学校から大学まで野球部にいた。野球をやる人には、打てなくなるとソックスを変えるなど、験を担ぐ人が多い。私も例外ではない。金沢から東京に来ているときはホテル暮らしだが、「最近、営業がうまくいかないな」と思ったときは、いつもと違うホテルに泊まって、日常生活を変えて気分転換を図ることで数字の回復を目指している。

地元、石川県金沢市の文房具店で購入した手帳。「ブランド品があまり好きではないので、値段が安い物を選んで倹約を心がけている」そうだ。