今、全国で約6500人のITコーディネータ(ITC)が活躍中である。地方のIT産業を活性化したり中小企業のIT化を促進したりする目的で2001年に誕生した資格制度で、有資格者はITと経営の両方の知識をもつ。資格保有者は全国に点在し、各地方のITCたちはコミュニティをつくって、各地方のIT産業の活性化に共同で力を尽くしている。いわば、地方にいる中小企業のIT事情を知るエキスパートだ。各地域のITCは、それぞれの地場IT産業の今をどうみているのか。この連載では、各地方のITCが届けてくれた声、地方の現実を各都道府県ごとに紹介する。(構成/木村剛士)
福岡県のITC
荒添美穂 氏(北九州市)
2002年4月にITC資格を取得。IT経営サポートのインテリジェントパークを経営しながら、県内ITCのコミュニティ団体にも参加して、ITの有効性を広める活動を手がける。
Q.自身の活動内容は?
A. ユーザー企業の要望に合わせて、ITとインターネットを有効活用した経営コンサルティングサービスを提供している。業務の見える化やクロスメディアを活用した販売戦略の提案、BCP(事業継続計画)の作成など幅広く手がけている。最近では、ITベンダーからの相談が多い。内容はクラウドサービスを展開するための支援。クラウドを始めたいと考えているベンダーが増えており、事業計画の立案、サービスの設計支援などを行っている。
Q.県内IT産業の景気は?
A. 上向いている。理由の一つがクラウド。地域産業においても、クラウドを求めるユーザーと、クラウドをビジネス化したいと考えるベンダーがいて、市場を活気づけている。また、地方でニーズが高いウェブサイトの制作・改修では、つくったウェブサイトが利益向上につながっていないという不満を漏らすユーザーが多い。その課題を解決するためにユーザーは投資し始めている。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. 地元IT産業の景気はいいと感じていて、実際に引き合いは多い。リソースが不足しているので、時期によってはお客様に待ってもらうような状況でもある。仕事の量という観点では心配はしていない。
問題は、ITCや経営コンサルティング企業が得る対価が上がらないこと。地方は首都圏よりも、ビジネスのボリュームが小さく、コンサルティング料金を上げにくい。
ITCが提供するコンサルティングサービスは無形であり、顧客の要望に応じてケース・バイ・ケースなので、対価が決めにくい。ITCのコンサルティングビジネスを伸ばすためには、ITCが提供するサービスに「メニューと標準価格」のような、ある程度の指標が示されるとありがたい。
そうすれば、ベンダー側はビジネスがしやすくなり、ユーザー企業側はITに投資しやすくなるので、結果的に地方のIT化が進むと感じている。
岡山県のITC
久保田浩二 氏(総社市)
2002年1月にITC資格を取得。IT経営支援のピットイン・リンクスの代表取締役を務めながら、県内ITCの支援団体であるNPO「ITC岡山」の理事長を務める。
Q.自身の活動内容は?
A. 個人としては、IT経営のコンサルティングを手がけている。また、岡山大学では、大学院生向けにITコーディネータの実務やIT経営のあり方について講義している。一方、ITC岡山の理事長としては、県内のIT・経営団体との協業を促進。岡山商工会議所とは、同所の会報にITCの活動を紹介するコラムを寄稿したり、システムエンジニアリング岡山(一般社団法人)とは、中小企業のためのIT経営フェアなど共同イベントを実施したりしている。
Q.県内IT産業の景気は?
A. 前年の同じ時期に比べて上向いている印象だ。複数のITベンダーに、受注状況や業務の過不足を聞くと、良好だという回答が多い。中央(首都圏)からの受託開発案件が増えている。ただ、課題もあって、受注価格が上がっていない。仕事の量は増えているが、それが必ずしも利益の増大につながっていないという構造的な問題を解決できないでいる。
Q.地方のIT産業を伸ばすために必要なことは?
A. 岡山のような地方では、ユーザー企業の規模が小さく、IT投資が極めて少ない。小さなシステムを導入するのも躊躇するユーザーが非常に多い。ITCの存在を知っていて「支援してもらいたい」と思っても、その費用を捻出できないユーザーが大半だ。
地方の抱える課題は、マーケット規模が小さいこと。地元企業・団体のIT投資が少ないために、地方のITベンダーは、中央のITベンダーからの下請けビジネスに頼らざるを得ない。それが、結果的に地方のIT化を遅らせているように思う。
事業として成立するマーケットを地元に求めるベンダー側と、安価で効率的に、経営者に寄り添ったITサービスを受けたいというユーザー側。このお互いのニーズが満たされないと、地方のIT化はいっこうに進まない。「攻めのIT投資の促進」「地方産業の活性化」という方針を政府が掲げているのなら、ユーザー側とベンダー側の現実に沿った政策を推進してほしい。