キーワードは「拡張現実(AR)」。ERP(基幹業務システム)世界最大手の独SAPは、自社のERPから呼び出したコンテンツやデータを、眼鏡型ウェアラブル端末とAR技術を組み合わせて投影し、リアルタイムで情報を参照しながら、倉庫でのピッキング作業や設備保守などの作業効率を高める取り組みに力を入れている。
SAPが同社の業務システムを使うユーザーとの実証実験を積み重ねる「コ・イノベーション(イノベーションをユーザーとともに起こす)」の手法で開発を進めているもので、まずは倉庫などでのピッキング作業の効率化を図る「SAP AR Warehouse Picker(エスエーピー・エーアール・ウェアハウス・ピッカー)」と、保守点検などの設備管理を支援する「SAP AR Service Technician(エスエーピー・エーアール・サービス・テクニシャン)」の二つを製品化した。
製品化といっても、実際の実用化までには、「眼鏡型ウェアラブル端末のハードウェア性能の向上をもう少し待たなければならない」(SAPジャパンの平垣達也・モビリティソリューション本部シニアモビリティスペシャリスト)状態ではあるが、それでも最先端の技術をいち早くユーザーの業務に反映するために、先行して技術開発に取り組む姿勢を明確に打ち出している。
倉庫ピッキングでの想定用途は、ピッキング対象の荷物がどれなのかをERPから呼び出し、対象の荷物をピッキングしたときに、その荷物のバーコード情報を読み取って「ピッキングが完了した」ことをERPに送り返す。バーコード読み取り端末を片手に作業するよりは、眼鏡型ウェアラブル端末のほうが両手を使えて効率がいいというわけだ。
もう一つの設備管理では、ERPから保守対象物がどれなのかを呼び出し、実際の保守作業では作業員が眼鏡型ウェアラブル端末に作業手順を表示させながら保守を行う。現場の作業員では判断がつかない事象に突き当たったときは、眼鏡型ウェアラブル端末のカメラで遠隔地にいる専門スタッフと視線を共有しながらビデオ通話で指示を仰ぐといった用途を想定している。
いかにも業務ソフトベンダーらしく作業に密着した実証実験を続けていて、「眼鏡型ウェアラブル端末の電池やディスプレイの解像度、音声UI(ユーザーインターフェース)などの完成度が高まれば、十分に実用に耐える」(SAPジャパンの井口和弘・テクノロジー&プラットフォームソリューションズAnalytics&Mobilityソリューションズディレクター)とみる。先の実証実験はいずれも海外の取り組みだが、SAPジャパンも2015年度に数社のユーザーと実証実験を行い、2016年度には眼鏡型ウェアラブル端末の成熟度を考慮しながら、国内で本格的に事業展開することを視野に入れている。(安藤章司)

眼鏡型ウェアラブル端末をかけて実演するSAPジャパンの井口和弘ディレクター