パーソナルデータだけじゃない規制の壁
法律や制度の壁が、IT利活用の阻害要因になっている例は、パーソナルデータだけではない。パーソナルデータの利活用については、ITの進化に伴う法的なグレーゾーンの拡大が問題になったが、世の中には、アナログ社会を前提とした法律・制度が依然として数多く残っており、ITの導入が明確に「認められていない」ケースも多い。これらを現状に即したかたちに改めるだけで、国民生活の利便性はもっと向上するし、ITベンダーにとっての商機も広がる。政府は、その具体的な道筋も、改定版「世界最先端IT国家創造宣言」で定めた。
改定内容のベースとなったのは、昨年12月に政府のIT戦略本部が取りまとめた「IT利活用の裾野拡大のための規制制度改革集中アクションプラン」だ。このプランでは、対面での説明や役務の提供を原則とすると定められている制度や業務であっても、ITの導入によってその縛りを緩められる可能性のあるもの、さらには、紙の書面のやり取りや保存が義務づけられている制度のなかで、デジタル化を認めるべきものなどを列挙したうえで、見直しの方向性を示している。
電子教科書は正式な教科書ではない?
具体的な例をみよう。高校での遠隔授業は、現在、正規授業として認められていない。これを正規授業として扱うことができるように、文部科学省が有識者会議を立ち上げて課題やその対応策を整理する。来年度の早い段階で、制度改正の詳細なスケジュールも明確にする予定だ。
現行の学校教育法では、教科書も紙ベースのものしか認められていないが、電子教科書も正式な教科書として位置づける。文科省は、2016年度の導入に向けて、教科書検定制度や無償供与制度などの見直しを進めていく。
また、不動産取引の契約では、重要事項の説明は必ず対面で行わなければならないことになっているが、インターネットを利用した遠隔での説明もできるように制度の改正を検討している。これは国土交通省が担当するが、合わせて契約書類の電子交付なども検討し、今年中には改正の方向性について結論を出す。
こうした個別の議論を取りまとめ、IT戦略本部が中心となって、IT利活用に関する規制改革の指針「ITコミュニケーション導入指針」を、来年上半期中に策定する方針だ。(本多和幸)