国策としての注力姿勢がより鮮明に
ITの活用による農業の競争力強化は、当初の「世界最先端IT国家創造宣言」でも重点分野に掲げられていた。2020年の目標として、「農林水産物輸出額1兆円」を掲げ、篤農家(研究熱心な農家)の高度なノウハウをデータ化して活用するという方針だった。改定版では、「データの流通」による先進システムの水平展開に取り組むことも明文化していて、国策として農業ITを強力に推進する姿勢をより鮮明にしたかたちだ。
改定のベースとなったのは、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が今年6月に策定した「農業情報創成・流通促進戦略」だ。濱谷健太・内閣官房IT総合戦略室参事官補佐は、「これまでは、篤農家の暗黙知を形式知化することが目的だったが、一つのシステムのなかで閉じた情報活用では、イノベーションに限界がある。言語やデータ形式を標準化することで、情報そのものを横展開し、より大きなイノベーションにつなげようというのが『情報の創成・流通』というコンセプトの背景にある考え方。農業の競争力向上やマーケティング力の強化、産業の高度化のためにも欠かせない」と説明する。
まずは名称・コードの標準化ガイドラインを検討
具体的な施策の実行部隊となる農林水産省は、来年度事業で、これらの課題に取り組む。まずは、ITベンダーが提供している農林水産分野向けのITシステムを網羅的に把握する。同時に、ITを利活用している農家の生産データや経営データを収集して、ITの導入効果を検証、分析する。
さらに、学識経験者やITベンダー、生産者などから成る検討委員会を設置して、肥料、農薬、農作業データの名称やコードを標準化するためのガイドラインを検討する方針だ。また、「スマート農業」の技術的課題実証事業や、形式知化された篤農家のノウハウを販売するビジネスモデルの実証事業も展開する。
すでに多くのITベンダーが農業分野に参入しているが、市場を大きくするためには、各社がデータの流通を意識したオープンなシステムを展開する必要がある。また、投資対効果が高く、農家の生産性向上に大きく貢献する事例をつくることも求められる。定量化された成果が大きくなるほど、国の支援にも熱が入るだろう。(本多和幸)