2014年は腕時計型ウェアラブル端末向けOSの「Android Wear」が登場し、アップルも「Apple Watch」の情報を積極的に発信。また、東芝やソニーなど国内電機メーカーも「Google Glass」を強く意識した眼鏡型ウェアラブル端末の試作品を展示会などで披露して注目を集めるなど、ウェアラブル元年といってよい年だった。業務用途での実証実験も進行中だ。

幅朝徳・CRIWAREエヴァンジェリストが身につけているウェアラブル端末の一例 しかし、その一方で、ウェアラブル端末を普及させるうえでの課題も浮き彫りになった。ウェアラブル関連に詳しいCRI・ミドルウェアの幅朝徳・CRIWAREエヴァンジェリストは、「ウェアラブル端末が普及するための一番のポイントは“楽しさ”だ」と分析している。スマートフォン連動機能やライフログのようなヘルスケア機能といった実用性もさることながら、「一般ユーザーが数万円の端末を購入する動機づけは、エンターテインメント的な楽しさやファッション性がなければ、まず難しい」と指摘する。
こうしたなか、幅氏の実体験のなかから得た知見を具体化した事例がある。それが、Googleが開発しているスマートフォンゲーム「Ingress(イングレス)」と、歩数計の機能をもつヘルスケア型のウェアラブルを組み合わせた取り組みだ。IngressはスマートフォンのGPS機能を使って“陣取り合戦”をするゲームで、世界規模で人気を博している。現実の建造物などに割り当てられている「ポータル」を奪い合い、そのポータルを線で結んだ面積の広さを競うものだ。ポータルを奪うには実際にその場に行かなければならず、「自陣の面積を広げるために会社の行き帰りに何kmも大回りすることもざら」という。
生活習慣病の予防やダイエットには、「1日1万歩歩くといい」といわれているが、一般的な会社員が、日常生活のなかで実際に1万歩歩くのはハードルが高い。そこでIngressという、ある種のゲーミフィケーション的な「楽しみ」を付加することで、「モチベーションを高めて、歩数を稼げる」ようにした。こうした取り組みによって幅氏はここ半年弱で実に14kgもの減量に成功している。

「Ingress」のプレー画面 ヘルスケアやスポーツの分野で先行するセイコーエプソンのウェアラブル製品群のように一定のビジネスボリュームになっているケースもある。だが、平均的な社会人が、ある日突然、歩数計や睡眠時間を計測できるウェアラブル端末を身につけるかといえば、やはりハードルが高いといわざるを得ない。従来のデバイスでは実現できない「楽しさ」や「革新性」「かっこよさ」をどこまで実現できるかが、2015年以降のウェアラブル端末の普及を大きく左右するとみられる。(安藤章司)