ふくらむB2Bへの応用アイデア
本連載の第9回では、腕時計型の活動量計「PULSENSE」に独自開発した「高精度脈拍センサ」を組み込み、デバイスメーカーとしての勝ち残りを目指すセイコーエプソンの取り組みを紹介した。同社グループの販売会社であるエプソン販売の佐伯直幸社長は、B2B市場でのウェアラブルデバイスのポテンシャルにも大きな期待を寄せている。
エプソンは、PULSENSEのほかにもさまざまなウェアラブルデバイスを開発・販売している。例えば、PULSENSEのランナー向けバージョンともいえる「WristableGPS」や、ゴルフ向けのスイング解析用デバイス「M-Tracer」などがあるが、とくに大きな注目を集めているのが、最先端IT・エレクトロニクス総合展「CEATEC JAPAN 2014」でライフスタイル・イノベーション部門グランプリを受賞したスマートグラス「MOVERIO」だ。
佐伯社長は、「製品のジャンルは一見するとバラバラのようだが、エプソンとしてははっきりとした目的意識をもって展開している。“ウェアラブル”というバズワードを追いかけているわけではない。精度とコストパフォーマンス、そして省エネ性能に大きな自信をもっている多種多様なセンサ技術をどうビジネスに生かすかに重点を置いている」と話す。
現状はコンシューマ向けの製品がほとんどだが、まずは認知度向上を最優先し、段階を踏んだ後にB2B市場へと展開することで、ウェアラブルデバイスを収益の柱の一つに育てたいと考えているのだ。従来の基幹事業であるプリンタ製品などの市場は、これから右肩上がりで伸びていくとは考えにくい。ウェアラブルという新しい市場で一定のビジネス規模を確保することは、長期的な成長に向けた重要な一手となる。
メディアや家電量販店などで積極的にPRした効果もあってか、佐伯社長もエプソン製ウェアラブルデバイスの認知の広がりには手応えを感じていて、いよいよB2B市場への本格展開のベースができたと考えている。「デバイスをひとまず世に出したからこそ、多くの人にB2B向け活用のアイデアを出してもらう環境が整った。例えば活動量計を自動車のドライバーの居眠り検知に使うこともできる。既存のコンシューマ向け製品をベースに、アプリケーションを業務特化のものに差し替えるなど、さまざまな使い方が考えられる」と佐伯社長は熱く語る。

MOVERIOを手にしながらウェアラブル端末のポテンシャルを熱く語るエプソン販売の佐伯社長 B2B向けIT市場にウェアラブルデバイスを浸透させるには、コンテンツ、つまりはアプリケーションをどう整備していくかがキモになる。エプソンは、そのためのエコシステムの構築にもすでに着手していて、ITベンダーやユーザー企業を巻き込んだ市場形成に取り組み始めている。(本多和幸)