ウェアラブル端末は、デバイスそのものの完成度を高めることも重要だが、いちばんの課題は、その端末にどんな仕事をさせるかにある。前号ではソニーの眼鏡型ウェアラブル「SmartEyeglass(スマートアイグラス)」をレポートしたが、開発を担当した武川洋・SIG準備室統括部長は、「今から15年ほど前、とにかくパソコンのUI(ユーザーインターフェース)がめんどくさかった」と、ウェアラブルに取り組むことになった動機を話す。
当時はパソコンの全盛期だったが、「いちいちメールなどの情報を取りに行くのも手間なので、できればコンピュータのほうで重要だと思われる情報を選んで、教えてもらいたいものだ」(武川統括部長)と考え、眼鏡型ウェアラブルの開発に手を挙げた。武川氏の得意とする分野は光学であり、15年の歳月をかけて薄さ1ミリの眼鏡レンズに鮮明な映像を表示する「ホログラム導光板」を独自に開発してみせた。しかし、武川統括部長が本来求めてきた秘書的役割を担うコンピュータシステムの開発まで至っているかといえば、残念ながら、これは今後の大きな課題となっている。
小型軽量でなければならないウェアラブル端末に、高度な処理能力をもたせるのは非効率であることから、IBMが提唱するコグニティブ・コンピューティング的なクラウド型の人工知能(AI)が新たに必要になるだろう。ただ、一足飛びにそこまで行かなくても、アイデア次第で応用の幅が広がるのがウェアラブル端末である。沖縄のレキサスは、米ニューロスカイが開発するヘッドセット型の脳波センサを、ウェブページやゲーム画面などのユーザビリティ測定に応用している。
ニューロスカイは、「ひたい」「耳」の2か所でおおよその脳波を測定する独自のセンサとアルゴリズム解析技術を備える。脳波測定は歩数計や脈拍計、加速度計などに比べて馴染みが薄く、ビジネスや日常生活にどう応用するかが課題となっていた。レキサスの常盤木龍治・事業推進部マネージャーは、「ウェブページのUI/UX(ユーザー体験)やカスタマージャーニーをよりよくしていくには、言語や行動からは見えてこない“ユーザーの無意識の反応”」も測定対象にしていく必要があると判断。ニューロスカイの脳波測定ウェアラブル端末と、視線を追うアイトラッキング技術を組み合わせてUXを改善するサービス商材に仕立てている。
前述のソニーの眼鏡型ウェアラブル端末も、まずは今年3月からアプリケーションやサービスの開発者向けに「SmartEyeglass」の販売をスタート。ハードウェアに先行してソフトウェア開発キット(SDK)を昨年9月から広く世の中に公開しており、社外からさまざまな対応アプリケーションやサービスを募ることで活用シーンの幅を広げ、本格的な事業化への道筋をつけていく。(安藤章司)

ヘッドセット型の脳波測定ウェアラブル端末を装着するレキサスの常盤木龍治マネージャー