マイナンバー(社会保障・税番号)は、管理の主体を民間に任せている点が、自治体が管理する従来の「住民票コード」と大きく異なる点である。住民票コードは自治体の住民基本台帳ネットワークシステムで使われている番号だが、マイナンバーはこの番号とは別に、新しい番号を住民一人ひとりに振り直す。では、民間で管理する以上、民間にも何らかのかたちでメリットがあるのか。管理業務を押しつけられるばかりでは、腑に落ちない点が出かねない。そこでマイナンバーでは商用利用も視野に入れた設計になっている。民間のアイデア次第でビジネスに活用できる可能性があるというわけだ。
現状のマイナンバーでできることを大ざっぱに表現すると、「マイナンバーが割り振られたデータベースから情報を引き出せる」ことだが、この対象となるデータベースは社会保障・税務分野に限られているうえ、データを引き出せるのは基本的に官公庁だけだ。例えば、誰か知らない人のマイナンバーを偶然手に入れたとしても、それをもって税務署へ赴き、「このマイナンバーに紐付けられた納税者の情報をくれ」と申し出たところで門前払いされるのがオチ。マイナンバーで情報を引き出すことができるのは所轄の官公庁に限られ、原則として民間がどうこうできるものではない。もっといえば課税所得や資産に対する税務署の捕捉率を高めるのに、民間が協力するだけの制度になってしまう。
将来的に、口座や戸籍、土地などにマイナンバーが割り振られるようになれば、その人の預貯金や相続の状況、保有している不動産といった資産状況を“名寄せ”できるようになる可能性があるが、これも恐らく役所が税金の捕捉率を高めるのに役立つ類いのもの。
マイナンバーに詳しい三菱総合研究所(MRI)の村上文洋・主席研究員は、「自治体のオープンデータと位置づけや捉え方が類似している」と話す。自治体はその地域のさまざまな情報をもっており、これを地域経済の発展に役立てるのが公的機関のオープンデータの考え方だが、いくら個人情報とは関係ない統計的なデータであっても、“万が一、個人が特定されてしまったら”との恐怖心からデータの公開に消極的になる自治体が少なくないという。
国や自治体からみれば、自分たちの業務がすべてかもしれないが、一般市民にとっては市役所や区役所と接点をもつのは、多くの場合、年に1回あるかないかのレベル。日常的に接点があるのは、圧倒的に民間のサービスであり、個人に関する情報の集積度もFacebookやAmazonを例に挙げるまでもなく、いまや民間の比重が高くなっている。MRIの前田由美・主席研究員は「もっと市民の目線に立って、例えばYahoo!のサービスの一つにオンライン納税を組み込んでしまうくらいの大胆さが必要」と指摘する。(つづく)(安藤章司)

三菱総合研究所(MRI)の村上文洋主席研究員(左)と前田由美主席研究員