リーマン・ショックが発生した直後、システム開発案件が激減したことで、多くのSIerが経営不振にあえいだ。なかでも小規模のSIerでは、エンジニアの稼働率が売り上げに直結するため、多くの場合、収益を悪化させることとなった。ところがシステムD3は、リーマン・ショック時でも収益を悪化させることなく、安定した売り上げを維持したのである。ポイントは、一次請け企業が頼りにする存在になること。システムD3が出した答えは、“隙間を埋める”であった。(取材・文/畔上文昭)
Company Data会社名 システムD3
所在地 東京都中央区
資本金 400万円
設立 2004年5月
社員数 5人
事業概要 コンテンツ配信ソリューションやSDN(Software-Defined Network)を中心とするシステム設計、構築、運用、保守。ECを中心としたウェブアプリケーション開発。プロジェクトマネジメント支援
URL:http://sys-d3.com/ システムサイクル全般を担う

古内康敏
代表取締役兼CEO システムD3の古内康敏・代表取締役兼CEOは、独立した当初、個人事業主のエンジニアとして大手ITベンダーに常駐していた。個人事業主としての設立は、1999年7月。ところが、発注先の信用度を求めて、大企業が個人事業主には発注しないようになり、古内CEOは起業を決断する。「新規事業創出促進法の改正によって資本金1円起業が可能になったので、これをチャンスとみて会社組織に変えた」。2004年5月のことである。
会社名のシステムD3は、「Design」「Development」「Deployment」の三つの“D”に由来する。システムサイクル全般を担うという意気込みを表現した。現在は社員が5人で、15人から20人の協力会社社員とともにSES(System Engineering Service)を中心にビジネスを展開している。
創業当初に手がけていたのは、音楽や動画などのコンテンツ配信システムだ。ブロードバンド化が進み、高精細な動画が扱いやすくなったことから、コンテンツ配信に対するニーズが盛り上がってきていた時期だった。一次請け企業である大手ITベンダーに常駐するかたちで、サーバーやストレージ、ネットワークの設計を担当した。現在も、その大手ITベンダーが主な取引先だ。「大手ITベンダーに頼っている状況は、決して悪いことだとは思っていないが、それだけでは不十分という気持ちもある」と古内CEOは胸の内を明かす。そこで、新規顧客の開拓も徐々に進めている。最近では、SDN(Software-Defined Network)関連も得意分野の一つになってきている。
隙間を埋めるゼネラリスト
システムD3の強みは「メンバーが指名される」(古内CEO)ほど、大手ITベンダーに信頼を得ている点だ。元請けとの関係の深さがあったからこそ、リーマン・ショックによる不況時でも、売り上げを維持することができた。景気が上向き、SI業界で人材不足になると、システムD3の強みはさらに有力な武器となり、売り上げを急激に伸ばしている。不況に強く、好景気の波にも乗ることができるという理想的な状況にある。
大手ITベンダーから声がかかる理由について、古内CEOは次のように分析している。「メンバーの守備範囲が広い。みんなゼネラリスト。そのため、大手ITベンダーにとっては使い勝手のいいエンジニアとの評価を得ている」。では、なぜゼネラリストが使い勝手のいいエンジニアということになるのか。「プロジェクトでは、必ず隙間が生まれる。開発と運用、インフラ構築とシステム開発など。その隙間を埋める役割には、ゼネラリストが向いている」(古内CEO)。
優秀なメンバーが揃っているのは、会社としてはいいことだが、その評価を維持することが課題にもなる。つまり、高い評価を維持できるかたちで、新たな人材を確保することは難しいというわけだ。
「自分でマネジメントできる範囲が理想なので、会社をむやみに大きくしようとは思わない。とはいえ、現状は協力会社に依存している部分が多く、当社としては人材不足の状態になっている」と古内CEO。未経験者を育てるにはOJTの場が限られるため、開発現場で数年のキャリアがある即戦力を求めている。ただし、SI業界全体が人手不足の状態であることから、簡単には採用できない。「ひたすら待つ」しかないというのが実際のところだ。
ハイブリッドなSIerへ
システムD3は、7月から新規分野に社員を1人投入した。案件は、某メーカーのB2B向けウェブシステムの運用改善。そのインフラ関連の担当として、サーバーをAWS(Amazon Web Services)へ移行することに取り組んでいる。古内CEOは、この案件をきっかけに、オンプレミスとクラウドの両方を取り扱うことができるハイブリッドなインテグレータへと、少しずつ事業を拡大させていく考えだ。
また、ストックビジネスとしてのサービスにも取り組んでいる。第一弾が、音楽大学の教授とともに開発した音楽のリコメンドサービスだ。まだビジネスとして軌道には乗っていないが、今後はこうしたサービスにも注力していく予定である。