IoTソリューション構築のために、まずは自社グループ内でのPoB(Proof of Business)を積極的に推進しようとしている富士通。前回説明したとおり、通信機器を製造している富士通アイ・ネットワークシステムズ山梨工場では、機械と人の動きを合わせてトータルで情報の「見える化」を図り、生産ラインの最適化を図ってきた。今後は、SoR領域との連携で、さらにソリューションとしての価値を高めようとしている。(本多和幸)
生産機械のログや製造実績だけでなく、作業員の動きに関するセンシングデータも蓄積することは、将来的に、人事管理システムと連携させて企業内のタレントマネジメントをデータドリブンなものにしていく手助けにもなり得る。
大澤達蔵・ネットワークサービス事業本部IoTビジネス推進室シニアディレクターは、「人の動きを生産ラインのプロセスの一部としてデータ化できるのは、富士通のヒューマンセントリックなセンシング技術ならではの非常に大きなポイント」だと説明する。「簡単にいうと、誰がどの作業・工程を得意としているのか、不得意としているのかとか、どの作業にストレスを感じるか、または快適にこなすことができるのかなどを、データをもとに推測できる。さらには、人と人の組み合わせの相性によってチームの効率性が上がったり下がったりという相関関係もデータとして出てくるだろう。これらのデータを複合的に分析・活用してタレントマネジメントソリューションに落とし込み、代表的なSoRの一つである人事管理システムと連動させたりという可能性を模索している」。
製造業の現場以外にも、PoBの事例づくりは進んでいるという。富士通グループのネットワーク施工を担い、屋外工事なども業務内容に含まれる富士通ネットワークソリューションズとも、富士通アイ・ネットワークシステムズの事例と同様に、PoBに取り組んでいる。建設現場など屋外の作業を伴う現場では、熱中症など作業員の健康管理や、危険地帯への立ち入り制御など、働く人の安心安全をIoTソリューションでサポートできるのではないかと構想している。また、人の動きをデータとして捉えることで、熟練作業員のノウハウの蓄積や継承にも役立てられるだろう。ただし、建設作業者には手がふさがるようなデバイスは持たせられないので、ヘッドマウントディスプレイやリストバンド型センサなどを積極的に導入し、ハンズフリーの状態で作業ができるように工夫している。試行錯誤して使いながら、あくまでも現場の状況に即してIoTソリューションの効果を最大化するのがPoBの価値なのだ。