IoTソリューションは、企業のビジネスのフロントエンドと密接に関連するという性格をもつ。そのため、富士通が他社と共同で実施しているPoBは、成果がある程度出揃うまで公表しないのが基本方針。まずは、グループ内のPoBの成果を積極的に発信し、IoTソリューション構築につなげる取り組みを先行させていることは、以前の連載で説明した。しかし、実は他社とのPoBの成果を実際に商用化した例もすでに出てきている。(本多和幸)
生活支援ロボットの開発・製造・販売を手がけるRT.ワークス(河野誠代表取締役)と富士通が共同で進めているのが、高齢者や歩行が不自由な人向けの歩行アシスト用カートを使ったIoTソリューションのPoBだ。富士通グループは、センサやセンシングデータの解析・分析用マイコン、無線通信機能を組み合わせたモジュール、さらには集めたデータをクラウド上で活用するためのIoT用プラットフォームなどを開発済みで、これをRT.ワークスが開発したカートと組み合わせて、新しいサービスを考えようと実証を重ねてきた。
具体的には、GPSによる位置情報やバッテリ残量、カートの傾きといった機器本体の情報はもちろん、利用者が歩行中なのか、停止中なのか、ハンドルをつかんでいる状態なのかどうか、歩行距離はどの程度なのか、脈拍の数値はどうか、さらには利用者がどの程度の身体的負荷を感じているか(運動強度)などをリアルタイムで収集して見える化し、分析する。これにより、高齢化社会のニーズに応え、歩行アシストカートというデバイスと強力な見守りサービスを一体化したIoTソリューションを提供したり、各種データをカートの保守や製品開発へのフィードバックにも活用したりできると考えているという。
「ポイントは、従来のITソリューションのように、何かを効率化しようという発想で考えているわけではなく、最初からIoTの世界を前提に、高齢者などのライフスタイルを変える、新しい価値を提供できるソリューションを開発しようとしていること。少し足が不自由になっても安心して外出を楽しめるようになれば、結果的に健康増進にもつながる」。大澤達蔵・ネットワークサービス事業本部IoTビジネス推進室シニアディレクターは、このPoBの意義をそう説明する。
RT.ワークスはこのPoBの成果を一部すでに事業化していて、見守りサービスを合わせて利用できる歩行アシストカート「ロボットアシストウォーカー RT.1」を提供している。販売、導入、運用・保守、顧客サポートなどの業務は、富士通エフサスがBPOとして受託しており、富士通グループが全面的にサポートしているかたちだ。