富士通は、前回紹介したRT.ワークスとの協業のように、IoTの新規ビジネスを、PoBを経て事業化するようなプロセスを水平展開していきたいと考えている。従来のITビジネスにおける「ユーザー」を、IoTビジネスのエコシステムに取り込んでいくことを重視しているのだ。(本多和幸)
「IoTを活用した新規ビジネスを事業化するには、従来のようなウォーターフォール的なやり方ではうまくいかないことが多い」。大澤達蔵・ネットワークサービス事業本部IoTビジネス推進室シニアディレクターは、そう指摘する。企画を立て、予算化する段階で事業の成否を予測するのは難しく、事業化のゴーサインが出ないことが多いからだ。
そこで、まずはスモールスタートで新しいサービスを市場投入してみて、軌道修正しながら大きく育てていくのが、IoTビジネスの事業化では重要になる。そして、そのための核になるのがPoBだ(図参照)。IoTでは、実証と事業に明確な境界がなくなってきているという。むしろ、両者を一体的に運営していくことこそがポイントなのだ。
富士通としては、「ハッカソンを開いたり、グループ会社の富士通デザインが、デザイン指向のUXをどうつくるかというコンサルティングをしたり、パートナーベンダーの製品や技術を組み込んだりといった働きかけをして、PoBがうまくまわって事業化につながるようなプロセスをユーザー、パートナーと共創している」と、大澤シニアディレクターは説明する。
こうした取り組みの成果もあってか、IoTを活用して新しいビジネスをやりたいと考えるユーザー企業は着実に増えているというのが、大澤シニアディレクターの実感だ。RT.ワークスにしても、もともとは歩行アシストカートの「モノ売り」が事業の柱だったが、これをIoTのデバイスとして活用することで、見守りサービスという新しいフィールドにも進出を果たし、事業領域を拡大したかたちになった。その際に富士通が、IoTのプラットフォームや、グループ会社の富士通エフサスを通じてBPOサービスなどを提供する体制を整えていたことは、同社の決断を後押しした。PoBを核にしたIoTソリューションの共創は、ユーザー企業のビジネスのかたちそのものを変革していく取り組みでもある。ユーザーも、IoTビジネスではエコシステムの重要な要素だ。