組み込みソフト開発の“主戦場”ともいえる車載ソフトの領域で異変が起きている。欧州発の車載ソフトの標準仕様「AUTOSAR（オートザー）」が日本市場でも影響力を発揮し始め、従来の手組みによる組み込みソフト開発が縮小・衰退する未来がみえ始めたからだ。本連載では、AUTOSARビジネスを巡る主要ベンダーの動きをレポートする。

　車載ソフト領域は、これまで標準となるOSが存在せず、自動車の各部を制御するマイコンチップごとに個別にソフトを開発することが多かった。このため労働集約型の開発スタイルとなり、SIerも多くのSEを送り込める“おいしい市場”であった。ところが「AUTOSAR」を採用する自動車関連メーカーが増えるに従い、「開発手法そのものが根底から変わりつつある」（組み込みソフトベンダー幹部）ことから、対応に追われているのが現状である。

　AUTOSARは欧州を中心にここ10年ほどかけて開発を進めているオープンアーキテクチャの規格だが、国内では名古屋大学の高田広章教授を中心とするAPTJ陣営と、SCSKを中心とする東西2陣営が、昨年、相次いでAUTOSARビジネスを旗揚げした。だが、国内には本場ドイツのベクター、アメリカ大手のメンター・グラフィックス、インドのKPITなどAUTOSARの黒船陣営がすでに上陸しており、国内勢にとってAUTOSARを巡るビジネスは船出早々から“時化模様”になることが危惧されている。

　外資系AUTOSARベンダーの話を総合すると、地元欧州の主要自動車メーカー、伊フィアット系の米クライスラーがAUTOSARを積極的に採用しており、米GMも追随する動きをみせているという。日本では欧州車に部品を供給する自動車関連メーカーがAUTOSAR対応を迫られており、この動きに呼応するかたちでAPTJ陣営とSCSK陣営が立ち上がったとみられている。欧米でAUTOSARが車載OSの標準となりつつあるなか、日本の自動車メーカーも同様に標準化を進めるとの見方が有力だ。

　では、なぜ組み込みソフト開発ビジネスにとって、AUTOSARはそれほど重要なのか──。長らく国内自動車メーカーの開発に携わり、今はKPIT日本法人副社長を務める山ノ井利美氏は、「自動車の付加価値に占めるソフトウェア比率の大きさ」が、その最大の理由だと話す。急発進を防いだり、人が前に出てきたときに急ブレーキをかけて被害を軽減したりする先進運転支援システムや、将来的なコンピュータによる自動運転は、ほぼすべてソフトが中心的な役割を果たす。

　アクセルやブレーキ、場合によってはハンドル操作によって危険を自動的に回避する仕組みは、従来の「機械式」から「コンピュータ制御」への移行を意味しており、付加価値の中心がソフトによって生みだされ、ソフト開発のボリュームも飛躍的に増える。次号からはAUTOSARをベースとした組み込みソフト開発ビジネスについて、より詳細にレポートする。