米国のAUTOSAR開発大手は、メンター・グラフィックスだ。スウェーデンのボルボ系ソフトウェア会社の旧ボルケーノを2005年にグループに迎え入れたことがきっかけとなり、AUTOSARの開発に参入。AUTOSAR関連の主要な開発拠点をドイツに設置し、AUTOSARの開発コンソーシアムの中心的メンバーの1社として活動している。国内ではアイシン精機などにAUTOSARの設計ツールを標準プラットフォームとして納入していることで有名だ。前号でレポートしたインドのKPIT、本場ドイツのベクターと並んでAUTOSAR開発の御三家といわれている。(取材・文/安藤章司)

三橋明城男
ディレクター AUTOSARは、以前からあるECU(電子制御ユニット)向けの「クラッシックプラットフォーム」と、衝突被害軽減ブレーキなどの先進運転支援システム(ADAS=エーダス)のソフトウェア基盤となることを視野に入れた「アダプティブプラットフォーム」の2種類があり、後者は現在規格を策定中である。メンター・グラフィックスが着目しているのは、ECU制御系とADAS系の融合が進み、電子回路がより高度化、複雑化している点だ。同社の本業の一つでもある「電子機器の設計自動化ツール『EDA』の大きな市場が形成される」(メンター・グラフィックス・ジャパンの三橋明城男・マーケティング部ディレクター)とみている。このツール市場を開拓する布石の一つとしてAUTOSARビジネスにも意欲的に取り組んでいる。
自動車を制御するコンピュータシステムの難しいところは、遅延が許されないリアルタイム制御が強く求められる点とされる。エンジンやブレーキ、ハンドル操作の制御に遅延があっては役に立たないため、それぞれに専用のECUを配置して制御するわけだが、そうなると制御する対象が増えれば増えるほど、ECUの数も増える問題に突き当たる。さらにADASの実装が進むとECU間のリアルタイム通信も重要となり、「将来的にECUやADASの一段の統合化は避けられない」(三橋ディレクター)と予測している。
これまでもカーナビをはじめとするテレマティクス機器はあったが、安全確保のためにECUの制御とは切り離された別システムであることがほとんど。しかし、ADASはクルマそのものを制御するシステムであることからエンジンやブレーキ、ハンドルなどの制御を担うECUとの連携は不可避である。そのため、従来のカーナビ系のシステムというよりは、現在のAUTOSARが主戦場としているECU制御と直結したシステムとして、一段と存在感を増していくものと見られている。それゆえ、AUTOSARの開発コンソーシアムでは、従来のECU制御の「クラッシックプラットフォーム」に加えて、ADASや将来の自動運転を視野に入れた「アダプティブプラットフォーム」の規格制定を進めている。
ECUの統合とADASの進歩は、組み込みソフトベンダーにとって大きなビジネスチャンスとなる。自動車関連メーカーだけでなく、「ADAS開発に可能性を見出す電機メーカーも有力な顧客ターゲットになる」(同)と指摘している。