前号で車載ソフトウェア開発の成熟度モデル「Automotive SPICE(オートモーティブ・スパイス)」について触れたが、今号は車載ソフトウェア開発支援ツールを開発するベンダーの取り組みをレポートする。NTTデータグループで組み込みソフト向け開発支援ツールを開発するキャッツ(渡辺政彦社長)も、AUTOSARに強い関心を示している1社だ。
同社が独自に開発し、主力商材としているのはコンピュータ支援ソフトウェアエンジニアリング(CASE)と呼ばれるジャンルの開発支援ツール「ZIPC(ジップシー)」シリーズで、車載や電機向け組み込みソフトベンダーを中心に、これまで国内外で累計およそ1000社に採用されているベストセラー商品である。

渡辺政彦
社長 車載ソフト開発ベンダーにも多く採用されていることから、国産AUTOSARの開発の気運が盛り上がってきた当初から強い関心をもっていた。キャッツは、SCSKと組み込み主要6社からなるAUTOSAR準拠「QINeS(クインズ)」OSの開発陣営の立ち上げ当初から参画することを決め、QINeSに対応した「ZIPC」も開発している。渡辺社長は、「QINeSのユーザーが、当社のZIPCもあわせて使うことで、AUTOSAR準拠の組み込みソフトの生産性や品質を大幅に高められる」と話す。
キャッツがAUTOSAR関連のツール需要に注目する背景には、車載向け組み込みソフト開発の規模が指数関数的に拡大していることが挙げられる。かつて、クルマの各部を制御するECU(電子制御ユニット)ごとに、小規模なソフト開発を手作業に頼っていた牧歌的な時代ならば、ソースコード1行ずつ人間の目で確認してバグを潰していく労働集約的な手法が通用した。だが、ADAS(先進運転支援システム)や自動運転が現実のものになってくると、「組み込みソフトの生産性や品質を確保するのは、もはや人力では不可能になってくる」と、渡辺社長はみている。
そこで登場するのが同社の組み込みソフト開発支援ツール群であるZIPCだ。AUTOSAR上で開発される各種アプリケーションソフトのモデリング(設計)やテストシナリオの自動生成、成果物に対するトレーサビリティ(追跡・検証)など、ZIPCのツール群を使えば、「組み込みソフトウェアの大規模化に十分に対応できる」と胸を張る。
とりわけ、近年、販売本数が大きく伸びているのがZIPCのトレーサビリティツールだという。例えば、前号で触れた「Automotive SPICE」や「ISO26262」といった国際的な成熟度モデルや規格に準拠して開発されたかどうかを追跡・検証するもので、納品先に対して「正しい方法」でつくったかを説明・証明する用途などで重宝されている。
キャッツでは、AUTOSAR普及によって車載向け組み込みソフト開発の規模拡大にも弾みがつくと予測しており、AUTOSAR対応をいち早く打ち出すことで向こう3年で累計納入先を最大1500社程度に拡大させていくとともに、これまでライセンス販売全体の1割程度にとどまっていた「海外向けの販売数も倍増させていきたい」と鼻息が荒い。