NEC通信システムは、デンソーがこの5月に51%出資して発足させたAUTOSAR開発会社「オーバス」に14%出資することで、AUTOSAR関連ビジネスに本格参入した。NEC通信システムは、ネットワーク機器などに組み込む制御ソフトウェア開発に強いベンダーで、合弁事業のオーバスでは、この強みをAUTOSARプラットフォームのうえに応用する役割を担うことになるという。(取材・文/安藤章司)
「AUTOSARの本質とは、ECU(電子制御ユニット)間、あるいはECU内部での通信のオープン化にある」と、NEC通信システムの西大和男・取締役執行役員常務組込システム事業本部長は指摘する。AUTOSARでは車載システムの通信制御を細かく規定しており、AUTOSARベースのECUであれば、通信の互換性が大幅に高まる。
高性能なECUで集中処理をさせるか、安価なECUをたくさん配置して分散処理をさせるかは、自動車の製造コストを大きく左右する。高性能なECUで集中処理をさせれば部品点数を減らせる一方、特定のECUメーカーへの依存度が高まってしまう。安価なECUを分散して配置すれば、ECUベンダー同士を競争させて、最も安い価格でECUを調達しやすくなるなど、集中と分散のバランスは自動車メーカーのコスト戦略に関わる重要な部分。AUTOSARによって通信の互換性が高まれば、より多くのAUTOSAR準拠のECUのなかから最適なものを選びやすくなるメリットが期待できる。
NEC通信システムは、このAUTOSARの通信制御の領域で強みを発揮できるとデンソーに見込まれて、出資の要請がきたというわけだ。NEC通信システムにとっても車載システム事業を一段と伸ばしていくタイミングだったことから、まさに“渡りに船”で、デンソーの要請を受けることにした。

左からNEC通信システムの西大和男常務と佐藤浩之事業部長
もう一つ、自動車はモバイルやセンサと並んで、NECグループのIoT事業の「“3大重要デバイス”の一角」(西大常務)に位置づけられており、この分野への進出はNECグループ全体のIoT戦略上、不可避だったともいえる。
自動車内部の通信に加えて、道路に設置されたセンサや一般のインターネットといった自動車外部への通信は、今後とも増え続け、重要度が増していく。同社の車載システム関連ビジネスは、全社売上高の1割ほどを占めるに過ぎないが、「全社の売り上げの伸び率よりも大きい」(NEC通信システムの佐藤浩之・第一組込システムソリューション事業部長)といい、車載システム関連ビジネスの割合は高まる見込みだ。
今回、オーバスに資本参加したことで、単なる発注・受注の関係ではなく、実質的にデンソーなどと共同でAUTOSAR対応の通信技術を開発する立ち位置となる。主体的に技術開発を進めることで、持ち前の強みをAUTOSARプラットフォームへ迅速に展開していく方針だ。