組み込みソフト開発に強いSRAホールディングスグループのSRAは今年5月、AUTOSAR準拠の「QINeS-BSW(クインズビーエスダブリュー)」を開発するSCSK陣営に参加。AUTOSAR関連事業を本格的に立ち上げている。
SRAは、科学技術計算などに使うハイ・パフォーマンス・コンピューティング(HPC)の分野で実績があり、高速処理や遅延制御の技術に長けている。HPCを支える超高速のネットワーク制御技術なども合わせて、遅延が許されない車載制御システムに役立てていく。同社は、乗用車のECU(電子制御ユニット)をはじめとする制御系のビジネスこそ少ないものの、カーナビや自動倉庫などで使う自動運搬機の制御系ソフトウェアの開発経験が豊富。SCSK陣営に加わることで、こうした強みをAUTOSARに応用していく。

坂本政彦
事業部長 AUTOSARとの出会い自体は、SRAは業界でも比較的早い。東海地区の車載組込みソフトウェア産業を発展させることを目的に2008年に発足した車載組込みシステムフォーラム(高田広章会長=名古屋大学教授)の発足時からのメンバーであり、現在も幹事を務めている。同フォーラムの活動を通じて「ここ7~8年ほど粘り強くAUTOSARの動向を探ってきた」(SRAの坂本政彦・産業第1事業部長)と話す。近年のADAS(先進運転支援システム)の進化の速さ、国内自動車関連メーカーが相次いでAUTOSAR採用の動きに出ていることから「事業化の機が熟した」と判断した。
SCSK陣営で「QINeS」の開発に参画するのと並行して、SRAが長年扱ってきた欧州発祥のUI(ユーザーインターフェース)開発フレームワーク「Qt(キュート)」を自動車向けに応用していきたいと考えている。折しもQtの車載向けパッケージの開発が進行しており、自動車の次世代のダッシュボードUIへの採用が加速することが期待されている。
ADASの進展などに伴い、「自動車のドライバーのUIにも大きな変化が起きる」(同)と、自動車のダッシュボードに搭載されている計器類は、今後、大きな液晶ディスプレイを駆使したグラフィカルなものに変わっていくと予測。従来はカーナビなどでみられたディスプレイの活用が、計器類のUIもよりグラフィカルなものになることで、SRAが強みとするQtを活用したUI開発が生きてくるとみているのだ。
とはいえ、AUTOSARそのものに精通した技術者が足りていないことから、SCSK陣営での「QINeS」事業に参加しつつ、まずは10人規模で中核的なAUTOSAR人材の育成に取り組む。同時にQtの車載分野への応用も進めていくことで、AUTOSARとQtを中心とした車載関連ビジネスとして「向こう数年で数億円程度の規模にしていきたい」としている。AUTOSAR&Qtビジネスが立ち上がってきたら「数十人、100人規模でも足りなくなる」とみており、HPCで培ってきた高速処理や遅延制御に長けた技術者や、Qtに精通した技術者などをビジネス規模の拡大に応じて動員をかけていくことで人材の拡充、育成に取り組んでいく構えだ。