富士ソフトは、AUTOSAR OSを開発するAPTJ(高田広章会長)立ち上げ当初からの主要メンバーの1社として参加している。富士ソフトで組み込みソフト事業を担当し、APTJの社外取締役も兼務する三木誠一郎・執行役員ASI事業部長は、APTJの事業について、「まずまずのスピード感をもって立ち上げることができた」と、設立準備から数えてほぼ1年が経過した中間評価は「及第点」だと、事業の立ち上がりに手応えを感じている。
もちろん、新会社ゆえに課題は山積している。まずもってライバルの欧米AUTOSARベンダーに周回遅れでのスタートだが、「周回遅れを百も承知で始めた事業。これをどうこういっても何も始まらない」(同)と割り切った上で、これからどうすれば世界レベルの競争に参加できるかに焦点を絞っていると話す。APTJという組織が立ち上がり、プロダクトの開発も順調に進んでいる今、今後のビジネス化に向けた戦略をどう展開していくかに課題意識を集中させているというわけだ。

三木誠一郎
執行役員 APTJには、富士ソフトの他に東海ソフト、永和システムマネジメント、キヤノンソフトウェアなど、そうそうたる組み込みソフト開発ベンダーが資金を出し合い、技術者を送り込んでいる。三木執行役員は、「外部の人から、呉越同舟でうまくいくのか?」との趣旨の質問をよく受けるというが、実際は「共通の目標、共通の危機感をもって、ときに侃々諤々と意見をたたかわしながらも、一枚岩で開発を進めている」と断言する。
どうしてそういうことができるのか――。各社とも自動車向け組み込みソフトを、主にECU(電子制御ユニット)メーカーから受託して開発している。近年はECUの高度化が進み、ソフトの開発ボリュームも増加傾向にあることから、足下のビジネスはおおむね良好だ。富士ソフト自身も自動車など機械制御系の売り上げが好調に推移し、減少傾向にある携帯電話関連領域を埋め合わせてなおプラスになる好調ぶりである。
しかし、このままECUの受託開発が青天井で伸びるほど甘くはない。自動車メーカーからみればECUのソフト開発費用の増加は、そのままコスト増の要因になる。このためAUTOSARをはじめとする共通プラットフォーム(OS)を導入して、開発工数の削減を一段と推進する見込み。APTJに参加する各社は、こうした動きに強い危機感を抱きながら、AUTOSARプラットフォームを活用した付加価値ビジネスへシフトしようとしているのだ。
自動車を巡っては、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転を視野に入れたAUTOSARの拡張版「アダプティブプラットフォーム」、自動車の外部環境をデジタル化する「ダイナミックマップ」などの新しい基盤づくりが進んでいる。従来の組み込みの受託ソフト開発に加え、各種の世界的なプラットフォームに対応し、かつ自社の付加価値を打ち出せるビジネスモデルをどう確立させるかが、自動車向け組み込みソフトベンダーの大きな課題として立ちはだかっている。